月より団子

「今日は、中秋の名月か」
「うん」
「だが、満月は明日なのだそうだ」
「うん」
「それでも、月は綺麗なものだな」
「うん」
「……兄者……」
 先程から、なんとなく生返事気味だとは思っていたが。見れば三方の上に乗せてあった月見団子が、凄まじい勢いで無くなっていた。兄である髭切は頬をリスのように膨らませ、もぐもぐと口を動かしている。
「……俺はまだ、一つも食べていないのだが」
「はひゃふはへはよ(早く食べなよ)。はふはっひゃうよ(無くなっちゃうよ)」
 兄者が食べ物を美味そうに食べる姿を見るのは好きだし、それで幸せを感じているのなら何よりだ。だが――こういう時特有の「むーど」というものがあるだろう……! 失意のどん底に落とされた膝丸の隣で髭切はぱたぱたと足を動かし、新たに手に取った団子を美味しそうに頬張ったのだった。
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