捕食する者、される者

 膝丸が寝間着を脱ぎ落とすと、引き締まった筋肉質な肉体が現れた。服を着ている時はおのれとそう変わらない体型に見えるのに、こうして裸になると体格差を感じさせられるんだよなあと、髭切は思う。
 髭切とて成人男子の姿を取っている刀剣男士、決して貧相なわけではないのだが、男らしく角ばった体格の膝丸と比べるとどことなく丸みを帯びていて、やや華奢だ。曲線的な髭切と、直線的な膝丸。まるでそれぞれの性格が体にも反映されたかのようだ。
「――このような時に考え事か、兄者」
 不意に耳元で低く囁かれ、髭切はびく、と肩を震わせた。目の前の膝丸は髭切と揃いの金色こんじきの瞳に情欲の炎を灯し、熱っぽく、じっとりと見つめてくる。
「ううん、別に考え事なんて……ひゃっ!」
 答えようとした髭切の耳を、膝丸が軽く噛んだ。瞬時にして耳まで真っ赤に染まった髭切は、既に〝臨戦モード〟に入っている膝丸の胸を押し返す。
「だから、耳は駄目だって」
「兄者のこういう時の『駄目』は、『いい』と同義だと思っているが?」
「……っ、可愛く、ない……っ」
「可愛くなくて結構。俺とて男だ、共寝をする時くらいはそれを充分にご理解いただきたい」
 そう答えた膝丸の手が、髭切の両脚をぐい、と持ち上げる。
 今の膝丸は、完全に捕食者の目をしている。僕は今からこの男に〝食べられ〟、支配されるのだ――弟の常とは異なる一面を目にして髭切はぞくぞくと身を震わせ、これから来る衝撃に備えて、自らがつけた引っかき傷だらけの広い背中に両腕を回したのだった。
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