鬼を斬る刀

 甘味処で買った菓子を、兄と二人で味わう。
「うん、美味しい」
「うむ、美味い。土産の分も買って良かったな、兄者。これで本丸に帰っても食べられるぞ」
「そうだね。毎日おやつに出てきてもいいくらいだ」
「はは、そこまで気に入ったのか。だが、それにはもっと……どうしたのだ、兄者?」
 不意に髭切が菓子を食べる手を止め、前方に目を遣った。それまで浮かべていた柔らかな笑みは消え、一気に目つきが鋭くなる。先に兄が気付いた、ということは。
「――『鬼』」
 低く呟いたと同時に、髭切はすらりと刀を抜いて駆け出した。なるほどそういうことかと、膝丸も兄同様刀を抜いて後を追う。
(……さすがは兄者、『鬼切丸』の名と鬼を斬った逸話を持つだけある。こういう時の兄者は俺よりはるかに鋭く、恐ろしい)
 現れた『鬼』の群れを目にするやいなや髭切は膝丸の目の前で高く跳躍し、勢いよく刀を振り下ろすと『鬼』を真っ二つに切り裂いた。間髪入れず次の『鬼』を薙ぎ払い、髭切は縦横無尽に駆け回りながら異形の者たちを斬って行く。おのれと同じ金色こんじきの瞳を爛々と輝かせ、口元には不敵な笑みさえ浮かべて。
 ――ああ、なんと美しく、勇ましいことか。これぞ俺の兄者であり、源氏の惣領刀。膝丸の全身に歓喜と畏怖に溢れた痺れがぞくぞくと駆け巡り、髭切が『鬼』を殲滅するまで、その場に足を縫い付けられたかのようにただただ立ち尽くしたのだった。
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