大花&小花
一日の活動を終えて、あとは寝るだけ。
ふわ、と小さな欠伸 をした謝憐 が床に敷いたゴザの上に横たわると花城 も隣に移動してきて、謝憐を見下ろした。背の高い花城の影に覆われ、どきりとした謝憐は花城から目を逸らしつつ声を掛ける。
「……さ、三郎 」
「ん? どうしたの、兄さん」
「その……ここにいる時は、『三郎』の姿でいてくれるかな。村の人たちに『小花 』と呼ばれている少年の姿で」
謝憐の言葉に、花城は目を丸くした後、少し悲しそうな表情になった。まるで大型犬が飼い主に叱られて耳を垂れた時のようだ。
「……兄さんは、俺の本当の姿が嫌い?」
「そっ、そうじゃない! そうじゃないんだ三郎! むしろすごく男前で恰好いいと思っているよ。ただ、なんというか……その姿の君に至近距離で見下ろされると妙に緊張するし、ましてや一緒に寝るなんてできなさそうというか……」
「……」
確かに花城は謝憐より背が高いし体格もいいので、圧迫感のようなものがあるのかもしれない。二人で使っているゴザも決して大きいとはいえないので、体格で勝る己 が謝憐の寝る場所を奪ってしまうことになり兼ねないのだ。
謝憐の本心など露知らず、花城は「ごめんなさい、俺の配慮が足りなかった」と謝り、即座に『三郎』の姿へと変化した。謝憐の目の前には今、しゅん、と項垂れた三郎少年の姿がある。
「いや、私のほうこそ変なことを言ってごめん。これは私の心の問題だから。そのうち慣れるだろうから、少しの間我慢してくれ。……うん、今の君も十分に美男子だけど、その姿ならリラックスできる」
安心したように微笑む謝憐の向かい側に、花城も横たわった。そして、
「……兄さんは、大人の男より可愛い少年のほうがお好み?」
瞳を潤ませ、両拳を可愛らしく口元に当てて囁かれた花城の言葉に、謝憐は思わず吹き出した。いくら上手く変化しているとはいえ中身は絶境鬼王、あの『血雨探花』だというのに、堪らなく可愛い。しかも本人は、それをよく分かっている。
「こういうの、なんて言うんだったかな……そうだ、〝あざとい〟もしくは〝あざとかわいい〟だ。三郎は困った甘えん坊さんだな」
「僕は、兄さんに対してはいつもそうだよ。いつだって兄さんに好かれたいし、いつだって一緒にいたいと思ってる」
「はいはい。お兄さんが傍 にいてあげるから、良い子は早く寝ようね。おやすみ、三郎」
「……うん。おやすみ、兄さん」
そう言って謝憐が後ろ手に灯りを消すと、室内が真っ暗になった。花城はもう少し謝憐と話していたかったが、彼も暇ではない。疲れているのだろうからなるべく早く寝かせてあげようと、素直に目を閉じる。
一方の謝憐も花城と向かい合ったまま目を閉じたが、己にだけ異常なほどに優しい本来の花城の姿がどうしてもちらつき、また目を覚ました時に花城がこちらを愛おしそうに見つめていたらどうしようなどと、一人心の中で悶々としていたのだった。
ふわ、と小さな
「……さ、
「ん? どうしたの、兄さん」
「その……ここにいる時は、『三郎』の姿でいてくれるかな。村の人たちに『
謝憐の言葉に、花城は目を丸くした後、少し悲しそうな表情になった。まるで大型犬が飼い主に叱られて耳を垂れた時のようだ。
「……兄さんは、俺の本当の姿が嫌い?」
「そっ、そうじゃない! そうじゃないんだ三郎! むしろすごく男前で恰好いいと思っているよ。ただ、なんというか……その姿の君に至近距離で見下ろされると妙に緊張するし、ましてや一緒に寝るなんてできなさそうというか……」
「……」
確かに花城は謝憐より背が高いし体格もいいので、圧迫感のようなものがあるのかもしれない。二人で使っているゴザも決して大きいとはいえないので、体格で勝る
謝憐の本心など露知らず、花城は「ごめんなさい、俺の配慮が足りなかった」と謝り、即座に『三郎』の姿へと変化した。謝憐の目の前には今、しゅん、と項垂れた三郎少年の姿がある。
「いや、私のほうこそ変なことを言ってごめん。これは私の心の問題だから。そのうち慣れるだろうから、少しの間我慢してくれ。……うん、今の君も十分に美男子だけど、その姿ならリラックスできる」
安心したように微笑む謝憐の向かい側に、花城も横たわった。そして、
「……兄さんは、大人の男より可愛い少年のほうがお好み?」
瞳を潤ませ、両拳を可愛らしく口元に当てて囁かれた花城の言葉に、謝憐は思わず吹き出した。いくら上手く変化しているとはいえ中身は絶境鬼王、あの『血雨探花』だというのに、堪らなく可愛い。しかも本人は、それをよく分かっている。
「こういうの、なんて言うんだったかな……そうだ、〝あざとい〟もしくは〝あざとかわいい〟だ。三郎は困った甘えん坊さんだな」
「僕は、兄さんに対してはいつもそうだよ。いつだって兄さんに好かれたいし、いつだって一緒にいたいと思ってる」
「はいはい。お兄さんが
「……うん。おやすみ、兄さん」
そう言って謝憐が後ろ手に灯りを消すと、室内が真っ暗になった。花城はもう少し謝憐と話していたかったが、彼も暇ではない。疲れているのだろうからなるべく早く寝かせてあげようと、素直に目を閉じる。
一方の謝憐も花城と向かい合ったまま目を閉じたが、己にだけ異常なほどに優しい本来の花城の姿がどうしてもちらつき、また目を覚ました時に花城がこちらを愛おしそうに見つめていたらどうしようなどと、一人心の中で悶々としていたのだった。
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