これでは、まるで
「お帰り、兄さん。ご飯にする? お風呂にする? どっちの準備もできているよ」
少し疲れた顔で天界から人界の菩薺観 へと帰還した謝憐 を、「小花 」姿の花城 が笑顔で迎えた。謝憐は無意識のうちに「三郎 」と答え、それに素早く反応した花城の腕の中へと倒れ込む。
「……ずいぶんお疲れだね。何かあったの?」
「特に何かあったってわけじゃないんだけど……不思議だな。今の私は天界の神で、本来帰るべき場所はここではないのに。ここは私の実家というわけではないのに、菩薺観に帰ってくると……とりわけ三郎の顔を見ると、とても落ち着くんだ……」
「……」
すー、はー、とまるで花城の匂いを胸いっぱいに吸い込むような仕草を繰り返している謝憐から顔を逸らし、花城は目を閉じて天を仰いだ。束の間の時間とはいえ、これではまるで、俗に言う「新婚さん」ではないか。花城としては謝憐を伴侶にできればこの上ない幸せなのだが。
「とにかく座って。今、料理を温め直すから」
花城の言葉に、謝憐は花城の第一声の意味にようやく気が付いたというように驚きをあらわにした。そして、
「……君が作ったのか?」
謝憐の問いに、花城は何でもないことのように頷く。
「うん。ここの村人は気前がいいね。黙っていても食材をくれるし、それを使った料理の作り方まで教えてくれる。兄さんの日頃の行いの賜物だね」
(……いや、明らかに君に夢中になっている女性たちのおかげだろう……)
花城は「小花」姿でも本来の姿でもとんでもない美男子なので、女性はもちろん男性の目も引いてしまう。謝憐も十分に美男子と呼べる顔立ちをしているのだが、粗末な衣服を纏っているせいなのか、あまりに「貧乏神」オーラが漂っているからか、花城の前ではどうしても霞みがちだ。村の女性たちに囲まれて己 より格段に多くの食材を手に帰ってきた花城のことを考えると途轍もなく胸がざわつくのだが、これではまるで「三郎は私のもの」と思っているも同然ではないかと、謝憐は当の花城の背中を見つめながら自らの両頬をぱしぱしと叩く。
やがてグツグツという音と美味しそうな匂いが部屋中に漂い始め、花城は鍋の中身を二つの椀によそった。たっぷりの野菜に少々の肉が入ったスープ、ほかほかのできたて饅頭 だ。
「美味しそう!」
「たくさん食べて。おかわりもあるから」
謝憐の向かい側に腰を下ろし、花城は嬉しそうに食事をする謝憐を穏やかに見つめた。――ずっとこんな生活が続けばいいのに。そんな言葉を飲み込んで、花城も静かに食事を摂り始める。
よほど腹が減っていたのか早々に食事を終えた(といってもしっかりおかわりはした)謝憐は、どさりと寝床に寝転がった。少し遅れて食事を終えた花城が、謝憐のすぐ傍 まで歩み寄って声を掛ける。
「少し休む?」
「うん。……はあ……天界にいる時より、ここでの暮らしのほうがよっぽど……」
ぴくりと眉を上げた花城が、小声で続きを促す。
「……よっぽど?」
「え? ……いや、落ち着くな、って。天界って何かと賑やかだし忙しないから、こういうふうに心からリラックスできる場所なんてなくてね。今みたいに食べてすぐに寝転がろうものなら、すかさず周りからだらしがない! って怒号が飛んでくるだろうし」
「俺は怒らないよ。絶対に。兄さんが俺といることで心からリラックスできると思ってくれているのなら、とても光栄だ。そういう時間を提供できて、凄く嬉しい」
「……」
――これでは、まるで。なんだか、急激に恥ずかしくなってきた。あわわわわ……と顔を真っ赤に染めて固まっている謝憐と、「俺も少し休もうかな」と向かい側に寝転がってじっと見つめてくる花城から、謝憐は視線を逸らしてますます体を縮こまらせたのだった。
少し疲れた顔で天界から人界の
「……ずいぶんお疲れだね。何かあったの?」
「特に何かあったってわけじゃないんだけど……不思議だな。今の私は天界の神で、本来帰るべき場所はここではないのに。ここは私の実家というわけではないのに、菩薺観に帰ってくると……とりわけ三郎の顔を見ると、とても落ち着くんだ……」
「……」
すー、はー、とまるで花城の匂いを胸いっぱいに吸い込むような仕草を繰り返している謝憐から顔を逸らし、花城は目を閉じて天を仰いだ。束の間の時間とはいえ、これではまるで、俗に言う「新婚さん」ではないか。花城としては謝憐を伴侶にできればこの上ない幸せなのだが。
「とにかく座って。今、料理を温め直すから」
花城の言葉に、謝憐は花城の第一声の意味にようやく気が付いたというように驚きをあらわにした。そして、
「……君が作ったのか?」
謝憐の問いに、花城は何でもないことのように頷く。
「うん。ここの村人は気前がいいね。黙っていても食材をくれるし、それを使った料理の作り方まで教えてくれる。兄さんの日頃の行いの賜物だね」
(……いや、明らかに君に夢中になっている女性たちのおかげだろう……)
花城は「小花」姿でも本来の姿でもとんでもない美男子なので、女性はもちろん男性の目も引いてしまう。謝憐も十分に美男子と呼べる顔立ちをしているのだが、粗末な衣服を纏っているせいなのか、あまりに「貧乏神」オーラが漂っているからか、花城の前ではどうしても霞みがちだ。村の女性たちに囲まれて
やがてグツグツという音と美味しそうな匂いが部屋中に漂い始め、花城は鍋の中身を二つの椀によそった。たっぷりの野菜に少々の肉が入ったスープ、ほかほかのできたて
「美味しそう!」
「たくさん食べて。おかわりもあるから」
謝憐の向かい側に腰を下ろし、花城は嬉しそうに食事をする謝憐を穏やかに見つめた。――ずっとこんな生活が続けばいいのに。そんな言葉を飲み込んで、花城も静かに食事を摂り始める。
よほど腹が減っていたのか早々に食事を終えた(といってもしっかりおかわりはした)謝憐は、どさりと寝床に寝転がった。少し遅れて食事を終えた花城が、謝憐のすぐ
「少し休む?」
「うん。……はあ……天界にいる時より、ここでの暮らしのほうがよっぽど……」
ぴくりと眉を上げた花城が、小声で続きを促す。
「……よっぽど?」
「え? ……いや、落ち着くな、って。天界って何かと賑やかだし忙しないから、こういうふうに心からリラックスできる場所なんてなくてね。今みたいに食べてすぐに寝転がろうものなら、すかさず周りからだらしがない! って怒号が飛んでくるだろうし」
「俺は怒らないよ。絶対に。兄さんが俺といることで心からリラックスできると思ってくれているのなら、とても光栄だ。そういう時間を提供できて、凄く嬉しい」
「……」
――これでは、まるで。なんだか、急激に恥ずかしくなってきた。あわわわわ……と顔を真っ赤に染めて固まっている謝憐と、「俺も少し休もうかな」と向かい側に寝転がってじっと見つめてくる花城から、謝憐は視線を逸らしてますます体を縮こまらせたのだった。
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