聖夜に乾杯
煌びやかなイルミネーションに彩られた、夜のマンハッタン。先進的で都会的なこのリージョンは昼夜を問わず常に賑わっているが、今は「聖夜」ということもあって、街中はいつも以上に多くの人で溢れ返っている。オウミから来た青年たち――ブルーとルージュもその一人ならぬ二人で、彼らは人波に揉まれながら目的地へと向かっている最中だった。
「……人が多い」
不満げに呟いたブルーへ、ルージュは苦笑しながら答える。
「うん……まるで、リージョン中の住人が集まったかのような多さだね。この人出じゃ、寄り道は無理かな。本当は大きなツリーを見て、クリスマスマーケットにも少し寄りたかったんだけれど」
「この時期のこの時間にマンハッタンに来ること自体が間違いだったのではないか? 人酔いしそうだ……」
「でも、もう店に予約を入れてあるから……ああっ、ブルー!」
ブルーが一瞬足を止めた途端に姿が見えなくなり、ルージュは慌てて引き返した。なんとか人波をかき分けてブルーを見つけ出すと、その腕を力強く引き寄せる。
「目的地はもう見えている。このまま突っ切るよ!」
「!? おい、離せ! 一人で歩ける!」
戸惑うブルーの手首を掴んだまま、ルージュはどんどん前へと進んで行く。普段は穏やかな紅い青年の背中が、この時は妙に頼もしく見えた。
ルージュが予約した店というのは、高層ホテルの最上階にあるレストランのことだった。日頃から彼が色々な雑誌を読み込んでいるのは知っていたが、それにしても用意周到過ぎるだろうと、ブルーは思う。
「随分と高級そうなホテルだが……金はあるのか?」
「大丈夫。この日のために、こつこつと貯金していたから」
「いつの間に……」
内装の豪華さに驚きながらもエレベーターを使ってホテルの最上階まで上り、目当てのレストランに到着する。上品で落ち着いた店構えに自然と体が緊張したが、窓側の席に通されて着席すると、眼下にはマンハッタンの美しい夜景が広がっていた。
「わあ、凄い!」
「……!」
「綺麗だね……都会ならではの、見事な夜景だ。……うん、多少無理をしてでもここまで来た甲斐があった。一度、こういう所で大人の聖夜を過ごしてみたいと思っていたんだ」
「大人の聖夜……?」
ブルーが首を傾げた所で、いかにも洗練された雰囲気の店員が、淡い金色の液体が入った細長いグラスを二つ持ってやって来た。二つのグラスがテーブルに置かれ、店員が去って行くと、ルージュがグラスを持ち上げてブルーを催促する。
「シャンパンだよ。飲んだこと、ないよね? 僕もない。……それじゃ、さっそく乾杯しよう」
「……つまり、これがお前の言う“大人の聖夜”ということか?」
「そう。大人らしく、少し贅沢で落ち着いた聖夜にしたいと思ってね。クリスマス・イヴはこうしたいって、ずっと考えていたから」
「……」
ルージュの真剣な眼差しを、ブルーは正面から受け止める。
好奇心が旺盛なルージュは、己 が足を踏み入れて来なかった世界を、たくさん見せてくれる。やや振り回されていると感じる時もあるが、たった一人の肉親と共に過ごす時間は、決して悪いものではない。――こんな風変わりな夜も、悪くない。ブルーの口元に静かな笑みが浮かび、彼もそっとグラスを持ち上げる。
「では、今夜はお前の奢りだな。存分に楽しませてもらうとしよう」
「来年は、君の出番だからね。それまでしっかり貯金しておいてよ? ――では、君と迎える初めての聖夜に、乾杯」
「――お前と迎える初の聖夜に、乾杯」
二つのシャンパングラスが軽く合わさり、澄んだ音を立てる。かつて命を奪い合う仲だった二人の初めての聖夜の晩餐会は、和やかに、そして優雅に始まったのだった。
「……人が多い」
不満げに呟いたブルーへ、ルージュは苦笑しながら答える。
「うん……まるで、リージョン中の住人が集まったかのような多さだね。この人出じゃ、寄り道は無理かな。本当は大きなツリーを見て、クリスマスマーケットにも少し寄りたかったんだけれど」
「この時期のこの時間にマンハッタンに来ること自体が間違いだったのではないか? 人酔いしそうだ……」
「でも、もう店に予約を入れてあるから……ああっ、ブルー!」
ブルーが一瞬足を止めた途端に姿が見えなくなり、ルージュは慌てて引き返した。なんとか人波をかき分けてブルーを見つけ出すと、その腕を力強く引き寄せる。
「目的地はもう見えている。このまま突っ切るよ!」
「!? おい、離せ! 一人で歩ける!」
戸惑うブルーの手首を掴んだまま、ルージュはどんどん前へと進んで行く。普段は穏やかな紅い青年の背中が、この時は妙に頼もしく見えた。
ルージュが予約した店というのは、高層ホテルの最上階にあるレストランのことだった。日頃から彼が色々な雑誌を読み込んでいるのは知っていたが、それにしても用意周到過ぎるだろうと、ブルーは思う。
「随分と高級そうなホテルだが……金はあるのか?」
「大丈夫。この日のために、こつこつと貯金していたから」
「いつの間に……」
内装の豪華さに驚きながらもエレベーターを使ってホテルの最上階まで上り、目当てのレストランに到着する。上品で落ち着いた店構えに自然と体が緊張したが、窓側の席に通されて着席すると、眼下にはマンハッタンの美しい夜景が広がっていた。
「わあ、凄い!」
「……!」
「綺麗だね……都会ならではの、見事な夜景だ。……うん、多少無理をしてでもここまで来た甲斐があった。一度、こういう所で大人の聖夜を過ごしてみたいと思っていたんだ」
「大人の聖夜……?」
ブルーが首を傾げた所で、いかにも洗練された雰囲気の店員が、淡い金色の液体が入った細長いグラスを二つ持ってやって来た。二つのグラスがテーブルに置かれ、店員が去って行くと、ルージュがグラスを持ち上げてブルーを催促する。
「シャンパンだよ。飲んだこと、ないよね? 僕もない。……それじゃ、さっそく乾杯しよう」
「……つまり、これがお前の言う“大人の聖夜”ということか?」
「そう。大人らしく、少し贅沢で落ち着いた聖夜にしたいと思ってね。クリスマス・イヴはこうしたいって、ずっと考えていたから」
「……」
ルージュの真剣な眼差しを、ブルーは正面から受け止める。
好奇心が旺盛なルージュは、
「では、今夜はお前の奢りだな。存分に楽しませてもらうとしよう」
「来年は、君の出番だからね。それまでしっかり貯金しておいてよ? ――では、君と迎える初めての聖夜に、乾杯」
「――お前と迎える初の聖夜に、乾杯」
二つのシャンパングラスが軽く合わさり、澄んだ音を立てる。かつて命を奪い合う仲だった二人の初めての聖夜の晩餐会は、和やかに、そして優雅に始まったのだった。
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