双子の日2021
茶の間のテレビから流れてきた「双子の日」という言葉に、料理雑誌を熱心に眺めていたルージュが、弾かれたように顔を上げる。
「へえ……今日は双子の日で、先に産まれた方を兄もしくは姉とする法律ができた日でもあるらしいよ」
「……」
一方で、文字ばかりの本を読んでいたブルーも無言でテレビを一瞥したが、すぐに本に視線を戻してしまった。だが読書に集中しているブルーのこんな態度はいつものことなので、ルージュは構わず続ける。
「地獄に入る直前、その場にいた術士に言われたことを覚えているかい? 『お前たちは本当の……』――あれは僕たちが人為的に分けられた双子ではなく、本当の双子だったんだ、と言われたんだと思っている。……となると僕たちは、どちらが先に産まれたんだろうね?」
この言葉に、ようやくブルーは読書をやめて顔を上げた。彼は少し考え込む素振りを見せ、やがてぽつりと呟く。
「……同じ年なのだから、どちらが兄でどちらが弟かなど、考えるだけ無駄だろう。仮に真相を知ったところで、俺たちの関係がどうにかなるわけでもあるまい」
「それはそうだけど……なんとなくブルーが兄で僕が弟、って気がする。……僕たちが普通の家に生まれて普通に一緒に育っていたら、君を「兄さん」と呼んでいたのかもしれないな」
少し寂しそうなルージュの横顔を、ブルーがじっと見つめる。そんな彼の視線に気付いて、ルージュもブルーを見つめ返した。互いに顔を見合わせると、すぐにルージュの表情は晴れやかなものへと変わる。
「……まあ、取り戻せない過去のことを考えても仕方がないね。幸い僕たちは、こうして二人で手を取り合って生きる道を選ぶことができた。新生活はまだ始まったばかりだし、これから先、何が起こるか分からないけれど――少なくとももう、君と敵対することはない。僕たちの真の人生は、これから始まるんだ。思い出だって、これからたくさん作れるはずだ」
「……だから最近、妙に色々な雑誌を買い集めているのか」
「あ、バレてたか」
ブルーの指摘に、ルージュが頬を掻く。バレてしまっては仕方がないとばかりに、ルージュはあちこちのリージョンで買い集めた雑誌をテーブルの上に広げてみせた。その中から彼は旅行雑誌を取り出し、パラパラとページを捲 る。
「個人的に今行ってみたいのは、京の温泉旅館でね。旅をしていた時は、全然のんびりしている暇なんて無くて。温泉自体も体にいいらしいし、いい癒しの旅になると思うんだ。生活がもう少し落ち着いたら、予約を入れるつもりだよ。……どうだい?」
「……お前、もうそこまで計画しているのか……」
「もちろん。せっかくあちこち自由に行けるようになったんだから、楽しまないと。ブルーも、行きたい所があったらリクエストしてくれていいんだよ」
「……考えておく」
楽しそうなルージュを見て、ブルーの表情も自然と和らぐ。
――そうだ、「真の人生」は、まだ始まったばかり。この世でたった一人の「家族」と共に、存分に人生を謳歌してやる。微かではあったがブルーの口元に、冷たいものではない、穏やかな笑みが浮かんだのだった。
「へえ……今日は双子の日で、先に産まれた方を兄もしくは姉とする法律ができた日でもあるらしいよ」
「……」
一方で、文字ばかりの本を読んでいたブルーも無言でテレビを一瞥したが、すぐに本に視線を戻してしまった。だが読書に集中しているブルーのこんな態度はいつものことなので、ルージュは構わず続ける。
「地獄に入る直前、その場にいた術士に言われたことを覚えているかい? 『お前たちは本当の……』――あれは僕たちが人為的に分けられた双子ではなく、本当の双子だったんだ、と言われたんだと思っている。……となると僕たちは、どちらが先に産まれたんだろうね?」
この言葉に、ようやくブルーは読書をやめて顔を上げた。彼は少し考え込む素振りを見せ、やがてぽつりと呟く。
「……同じ年なのだから、どちらが兄でどちらが弟かなど、考えるだけ無駄だろう。仮に真相を知ったところで、俺たちの関係がどうにかなるわけでもあるまい」
「それはそうだけど……なんとなくブルーが兄で僕が弟、って気がする。……僕たちが普通の家に生まれて普通に一緒に育っていたら、君を「兄さん」と呼んでいたのかもしれないな」
少し寂しそうなルージュの横顔を、ブルーがじっと見つめる。そんな彼の視線に気付いて、ルージュもブルーを見つめ返した。互いに顔を見合わせると、すぐにルージュの表情は晴れやかなものへと変わる。
「……まあ、取り戻せない過去のことを考えても仕方がないね。幸い僕たちは、こうして二人で手を取り合って生きる道を選ぶことができた。新生活はまだ始まったばかりだし、これから先、何が起こるか分からないけれど――少なくとももう、君と敵対することはない。僕たちの真の人生は、これから始まるんだ。思い出だって、これからたくさん作れるはずだ」
「……だから最近、妙に色々な雑誌を買い集めているのか」
「あ、バレてたか」
ブルーの指摘に、ルージュが頬を掻く。バレてしまっては仕方がないとばかりに、ルージュはあちこちのリージョンで買い集めた雑誌をテーブルの上に広げてみせた。その中から彼は旅行雑誌を取り出し、パラパラとページを
「個人的に今行ってみたいのは、京の温泉旅館でね。旅をしていた時は、全然のんびりしている暇なんて無くて。温泉自体も体にいいらしいし、いい癒しの旅になると思うんだ。生活がもう少し落ち着いたら、予約を入れるつもりだよ。……どうだい?」
「……お前、もうそこまで計画しているのか……」
「もちろん。せっかくあちこち自由に行けるようになったんだから、楽しまないと。ブルーも、行きたい所があったらリクエストしてくれていいんだよ」
「……考えておく」
楽しそうなルージュを見て、ブルーの表情も自然と和らぐ。
――そうだ、「真の人生」は、まだ始まったばかり。この世でたった一人の「家族」と共に、存分に人生を謳歌してやる。微かではあったがブルーの口元に、冷たいものではない、穏やかな笑みが浮かんだのだった。
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