サガパラ長月祭・前夜祭への投稿物
<サガパラ長月祭まであと5日>
「さて……これからどうする?」
ゲンの言葉に、仲間たちがしばし間を置いて答える。
「どうしようかねえ。俺たちの旅の始まりの地、スクラップにでも戻るかい?」
「そうね。スクラップには指輪の一つがあるって話だし、次はクーンの指輪探しの旅を始めるとしましょうか」
「わあ、ありがとうメイレン! もちろんゲンさん、リュート、T二六〇も来てくれるよね?」
きらきらと目を輝かせるクーンへ、二人の男はやれやれといった様子で、一体は快く頷く。
「ま、こうなったらとことん付き合うか。犬っ子も、かなり危なっかしいからな」
「偶然スクラップに居合わせただけなのに、長い付き合いになったもんだ。旅の中で鍛えに鍛えた剣の腕と歌で、これからも盛り上げていくぜ~」
「新しい任務ですね。承知しました。引き続き私も同行しましょう」
マジックキングダムの若き術士・ブルーの旅の行方を見届けた一行は、次なる旅へ。強い絆で結ばれた四人と一体は、わいわいと話しながらシップ発着場へと向かったのだった。
<サガパラ長月祭まであと2日>
ルージュ、と呼びかけて、ブルーは口を噤 んだ。そうだ、もういないのだった――俺の内には。
(あいつが再び肉体を取り戻したことは喜ばしいのだろうが……あれからお前がすぐにキングダムを発 ったせいで、対等に話せる相手がいない。相談したいことも、山ほどあるというのに)
今の己 とルージュは対決前と同じ、別々の人間。術士としても〝半人前〟に戻ってしまったが、最も大切なものを見つけた今、そんなことはどうでもいい。一人では半人前だというのなら、二人で力を合わせればいいだけのことだ。それなのに。
(……手紙だけはこまめに寄越してくるが、一向に帰ってくる気配がない。奴め、本当にキングダム復興に貢献する気はあるのか?)
融合を経て、自分は随分変わったものだ。ルージュは旅を満喫しているようだが、マジックキングダムの指導者となった俺は、こんなにも苛立ちと孤独感に苛まれている。厄介な感情だ。
帰ってきたら一発殴る、とまではいかなくとも、小言は覚悟しておけ。今はいない片割れに思いを馳せながらも、ブルーは急激に湧き上がってきた寂しさを振り払うように、目の前の書類にペンを走らせたのだった。
<サガパラ長月祭まであと0日>
突如部屋に現れた長い黒髪の男を見て、術書を読み耽っていた時の君は、わずかに眉を顰めた。どうせ今回も暇つぶし、もとい冷やかしに来ただけなのだろう。退屈だというのならここではなく他のリージョンへ行けと、時の君は思う。
「フン、相変わらず陰気な場所だな。華やかさの欠片もない」
「……」
「だが、喜べ! 今日はこの薄暗いリージョンに光をもたらすべく、素晴らしいアイディアを持ってきたぞ。とくと見るがいい!」
嫌な予感しかしない。無視を決め込むつもりだった時の君がようやく黒髪の男――ヴァジュイールを見ると、彼は部屋の扉を開け放ち、巨大な鳩時計のあるエリアにやってきた途端にパチン、と指を鳴らした。ヒュー、ヒューという笛の音がした後、夜空のような空間に打ち上がる、色とりどりの花火。あちらこちらに散らばったモンスターたちがその音と光に驚いて飛び上がり、パニック状態になってその場から逃げ出す。
「貴様……っ、私のリージョンで何をしている!」
「ハハハ、愉快愉快! たまにはモンスターどもに運動をさせてやれ。一つ所に留まったままでは、いざという時に使い物にならんぞ」
「帰れ!」
あたふたと走り回り逃げ惑うモンスターたちを鎮めながら青筋を立てる時の君へ、「お前も篭ってばかりいないで、時々は外へ出ろ」と言い残して、ヴァジュイールは姿を消した。
下級妖魔である己が、妖魔の中の妖魔である「妖魔の君」に多少なりとも関心を持たれていること自体が奇跡なのだろうが、自身の〝家〟とも言えるリージョンで好き勝手されるのは、迷惑でしかない。今後また同じことが起こらぬよう、用心せねば――未 だ怯えて小さな声で鳴きながら震えているモンスターたちを宥 めつつ、時の君は深い溜め息を吐いたのだった。
「さて……これからどうする?」
ゲンの言葉に、仲間たちがしばし間を置いて答える。
「どうしようかねえ。俺たちの旅の始まりの地、スクラップにでも戻るかい?」
「そうね。スクラップには指輪の一つがあるって話だし、次はクーンの指輪探しの旅を始めるとしましょうか」
「わあ、ありがとうメイレン! もちろんゲンさん、リュート、T二六〇も来てくれるよね?」
きらきらと目を輝かせるクーンへ、二人の男はやれやれといった様子で、一体は快く頷く。
「ま、こうなったらとことん付き合うか。犬っ子も、かなり危なっかしいからな」
「偶然スクラップに居合わせただけなのに、長い付き合いになったもんだ。旅の中で鍛えに鍛えた剣の腕と歌で、これからも盛り上げていくぜ~」
「新しい任務ですね。承知しました。引き続き私も同行しましょう」
マジックキングダムの若き術士・ブルーの旅の行方を見届けた一行は、次なる旅へ。強い絆で結ばれた四人と一体は、わいわいと話しながらシップ発着場へと向かったのだった。
<サガパラ長月祭まであと2日>
ルージュ、と呼びかけて、ブルーは口を
(あいつが再び肉体を取り戻したことは喜ばしいのだろうが……あれからお前がすぐにキングダムを
今の
(……手紙だけはこまめに寄越してくるが、一向に帰ってくる気配がない。奴め、本当にキングダム復興に貢献する気はあるのか?)
融合を経て、自分は随分変わったものだ。ルージュは旅を満喫しているようだが、マジックキングダムの指導者となった俺は、こんなにも苛立ちと孤独感に苛まれている。厄介な感情だ。
帰ってきたら一発殴る、とまではいかなくとも、小言は覚悟しておけ。今はいない片割れに思いを馳せながらも、ブルーは急激に湧き上がってきた寂しさを振り払うように、目の前の書類にペンを走らせたのだった。
<サガパラ長月祭まであと0日>
突如部屋に現れた長い黒髪の男を見て、術書を読み耽っていた時の君は、わずかに眉を顰めた。どうせ今回も暇つぶし、もとい冷やかしに来ただけなのだろう。退屈だというのならここではなく他のリージョンへ行けと、時の君は思う。
「フン、相変わらず陰気な場所だな。華やかさの欠片もない」
「……」
「だが、喜べ! 今日はこの薄暗いリージョンに光をもたらすべく、素晴らしいアイディアを持ってきたぞ。とくと見るがいい!」
嫌な予感しかしない。無視を決め込むつもりだった時の君がようやく黒髪の男――ヴァジュイールを見ると、彼は部屋の扉を開け放ち、巨大な鳩時計のあるエリアにやってきた途端にパチン、と指を鳴らした。ヒュー、ヒューという笛の音がした後、夜空のような空間に打ち上がる、色とりどりの花火。あちらこちらに散らばったモンスターたちがその音と光に驚いて飛び上がり、パニック状態になってその場から逃げ出す。
「貴様……っ、私のリージョンで何をしている!」
「ハハハ、愉快愉快! たまにはモンスターどもに運動をさせてやれ。一つ所に留まったままでは、いざという時に使い物にならんぞ」
「帰れ!」
あたふたと走り回り逃げ惑うモンスターたちを鎮めながら青筋を立てる時の君へ、「お前も篭ってばかりいないで、時々は外へ出ろ」と言い残して、ヴァジュイールは姿を消した。
下級妖魔である己が、妖魔の中の妖魔である「妖魔の君」に多少なりとも関心を持たれていること自体が奇跡なのだろうが、自身の〝家〟とも言えるリージョンで好き勝手されるのは、迷惑でしかない。今後また同じことが起こらぬよう、用心せねば――
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