新年も、2人で。
「ブルー、起きて。もうすぐ年が明けるよ」
「……ん……」
ルージュの声に、彼の隣で眠っていたブルーが、わずかに身じろいだ。ルージュがブルーを起こしたのは、新年まで残り15分、各リージョンの映像と共にリポーターたちが、それぞれのリージョンで今年起こった主な出来事や現在の様子を声だけで伝える年越し番組が始まったからだ。
「ここは……マジックキングダムだ。ほらブルー、キングダムの今の様子だって」
ルージュに肩を叩かれて、ようやくブルーは目を開けた。番組の最初に映し出されたのは、崩壊の憂き目に遭ったマジックキングダム。しかしそこでは復興を手伝っていると思われる屈強な男たちが集まって酒瓶を手にし、肩を組んで楽しげに盛り上がっている。
「……」
「……」
その光景を見てルージュは言葉を失い、ブルーが不快そうに顔を顰 めた。今はオウミに住んではいるものの、マジックキングダムはどれだけ非道な行いをしてきたリージョンであっても、自分たちが生まれ育った故郷。そこへ術士とは程遠い見た目のよそ者たちが入り込み、未 だ地獄からの襲撃の爪痕が残る故郷でバカ騒ぎをしているのだ。やはりマジックキングダム出身の術士としては、いい気はしない。胸に何ともいえないモヤモヤを抱えながらも、二人はなんとか平静を取り戻す。
「……僕たちはキングダムを離れた身なんだから、何を見てもこんな感情を抱くべきではないのにね。22年間住んでいた場所から受けた影響って、やっぱり大きいんだな……」
「あんなろくでもないリージョンでも、故郷であることに変わりはない。復興にこういう脳筋どもが必要なのは分かってはいるが、ああも浮かれている様を見せられるのは、やはり気に入らんな」
そう話しているうちに、映像は次のリージョンへと切り替わった。二番目に映し出されたのは、妖魔たちが住む耽美なる薔薇の園、ファシナトゥール。ここも、大きな動きがあったリージョンだ。
「ファシナトゥールだ。相変わらず独特な景色だけど、確かにここも、大きな変化があったリージョンだね。アセルスたち、元気にやっているかな」
映像で流れているのは針の城の中ではなく根っこの町だったが、長らくこのリージョンを支配していた魅惑の君オルロワージュが消滅し、彼の血がその身に流れている半妖のアセルスが現君主代理となった今、ファシナトゥールはどう変わって行くのか――かつて彼女の仲間であったルージュにとっては、最大の関心事のひとつだ。それまで積み上げてきたものが崩れ、変革の時を迎えている二つのリージョン。その瞬間に立ち会うことができたのは、奇跡と言ってもいいだろう。
それからも映像は次々と切り替わり、中には、自分たちが行ったことのないリージョンもあった。それらを興味深く眺めているうちに時間はあっという間に経ち、やがて映像はマンハッタンへと移り、広場に集まって夜空を見上げている人々が映し出される。
そしていよいよ、広場に集まった人々が一斉に、カウントダウンを始めた。5、4、3……と数字が減って行き、0になった瞬間に画面には『0:00』と表示され、「ハッピーニューイヤー!」という大歓声と、新年を祝う花火が盛大に打ち上げられた。相変わらずマンハッタンは騒がしいリージョンだなと、ブルーは思う。
「あけましておめでとう。ブルー、今年もよろしくね」
明るい声と表情でルージュが言えば、
「……ああ。今年も無事、お前と新年を迎えることができて良かったと思う」
微笑みこそしなかったが、穏やかな声でブルーが返す。
「大勢で賑やかに年越しをするのもいいけど、こういう二人水入らずの、静かな年越しもいいものだね」
「むしろ俺は、こういう形の年越しのほうがいい。人混みに紛れるのは、クリスマスとやらの時だけで充分だ」
「そう言いながらも僕の我儘 にちゃんと付き合ってくれる君には、本当に感謝しているよ。去年のクリスマスディナーは約束どおり、君の奢りだったしね」
新年に沸く人々の映像を見ながら、兄弟水入らずで過ごす。来年も、この先もずっとこんなふうに過ごしていけたらいいなと、二人は心から思ったのだった。
「……ん……」
ルージュの声に、彼の隣で眠っていたブルーが、わずかに身じろいだ。ルージュがブルーを起こしたのは、新年まで残り15分、各リージョンの映像と共にリポーターたちが、それぞれのリージョンで今年起こった主な出来事や現在の様子を声だけで伝える年越し番組が始まったからだ。
「ここは……マジックキングダムだ。ほらブルー、キングダムの今の様子だって」
ルージュに肩を叩かれて、ようやくブルーは目を開けた。番組の最初に映し出されたのは、崩壊の憂き目に遭ったマジックキングダム。しかしそこでは復興を手伝っていると思われる屈強な男たちが集まって酒瓶を手にし、肩を組んで楽しげに盛り上がっている。
「……」
「……」
その光景を見てルージュは言葉を失い、ブルーが不快そうに顔を
「……僕たちはキングダムを離れた身なんだから、何を見てもこんな感情を抱くべきではないのにね。22年間住んでいた場所から受けた影響って、やっぱり大きいんだな……」
「あんなろくでもないリージョンでも、故郷であることに変わりはない。復興にこういう脳筋どもが必要なのは分かってはいるが、ああも浮かれている様を見せられるのは、やはり気に入らんな」
そう話しているうちに、映像は次のリージョンへと切り替わった。二番目に映し出されたのは、妖魔たちが住む耽美なる薔薇の園、ファシナトゥール。ここも、大きな動きがあったリージョンだ。
「ファシナトゥールだ。相変わらず独特な景色だけど、確かにここも、大きな変化があったリージョンだね。アセルスたち、元気にやっているかな」
映像で流れているのは針の城の中ではなく根っこの町だったが、長らくこのリージョンを支配していた魅惑の君オルロワージュが消滅し、彼の血がその身に流れている半妖のアセルスが現君主代理となった今、ファシナトゥールはどう変わって行くのか――かつて彼女の仲間であったルージュにとっては、最大の関心事のひとつだ。それまで積み上げてきたものが崩れ、変革の時を迎えている二つのリージョン。その瞬間に立ち会うことができたのは、奇跡と言ってもいいだろう。
それからも映像は次々と切り替わり、中には、自分たちが行ったことのないリージョンもあった。それらを興味深く眺めているうちに時間はあっという間に経ち、やがて映像はマンハッタンへと移り、広場に集まって夜空を見上げている人々が映し出される。
そしていよいよ、広場に集まった人々が一斉に、カウントダウンを始めた。5、4、3……と数字が減って行き、0になった瞬間に画面には『0:00』と表示され、「ハッピーニューイヤー!」という大歓声と、新年を祝う花火が盛大に打ち上げられた。相変わらずマンハッタンは騒がしいリージョンだなと、ブルーは思う。
「あけましておめでとう。ブルー、今年もよろしくね」
明るい声と表情でルージュが言えば、
「……ああ。今年も無事、お前と新年を迎えることができて良かったと思う」
微笑みこそしなかったが、穏やかな声でブルーが返す。
「大勢で賑やかに年越しをするのもいいけど、こういう二人水入らずの、静かな年越しもいいものだね」
「むしろ俺は、こういう形の年越しのほうがいい。人混みに紛れるのは、クリスマスとやらの時だけで充分だ」
「そう言いながらも僕の
新年に沸く人々の映像を見ながら、兄弟水入らずで過ごす。来年も、この先もずっとこんなふうに過ごしていけたらいいなと、二人は心から思ったのだった。
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