2018年~2020年小話集

<冬の光景/幼少シノン組>
 小さな少女はさくさくと霜柱を踏み、黄緑髪の少年は、水溜まりの薄氷を割って回っている。
「はあ……サラならまだしも、ユリアンったら。本当に子供ね」
 呆れたように呟くエレンへ、
「十歳は充分に子供じゃないか。冬は厳しいんだし、少しでも楽しまなきゃ」
 笑顔で返したトーマスのてのひらには、小さな雪だるま。それを見たユリアンとサラが、ぱあっと顔を輝かせる。
「よーし! でっかい雪だるま作るぞ!」
「サラもー! おねえちゃんもつくろうよ!」
「……しょうがないわね。こうなったら、特大のを作ってやろうじゃないの」
 エレンの瞳に、ぎらりと闘志が宿ったのだった。

<ひとり/ユリアン>
 少し一人になりたいんです。そう言って黄緑髪の青年は、しばし王宮を後にする。
 この道を選んだのは自身なのに。今は遠くにいる親友のうわさを聞くたび、寄越される手紙を読むたびに、寂しさで胸が締め付けられる。もう二度と会うことは叶わないのではないかと、不安に押し潰されそうになる。
(……弱いな、オレは。トムの手紙にあったとおり、名誉なことなのに。あいつだって頑張ってる……しっかりしなきゃ)
 冷たい夕風が、心身に沁みる。両手で頬を叩き、青年は想いを振り払うように身を翻した。

<シノン組バレンタイン/サラ→トーマス&ユリアン>
「トム、ユリアン。いつもお世話になってるから、チョコを手作りしてみたの」
「ありがとう、サラ。お返しは必ずするよ」
「ありがとな。やっぱりサラは女の子って感じだよな~」
 小さなハート型のチョコレートをつまみ、トーマスとユリアンが微笑む。だがサラは、何か思う所があったようだ。
「トムのお返し、怖いなぁ。手加減してね?」
「お菓子作りの腕はサラのほうが上だろう。大丈夫さ」
 戦々恐々とするサラに今一度、トーマスは穏やかに微笑んだ。

<シノン組バレンタイン/エレン→ユリアン>
「これ。一人じゃ食べきれないし、あんたにもあげるわ」
「えっ?」
 差し出されたのは、箱に詰められた可愛らしいチョコレート。サラから手作りチョコレートを貰ったばかりだったユリアンは、つい余計なことを口にしてしまう。
「なんだ、てっきりオレに全部くれるのかと」
「あたしにそういうのを期待するんじゃないよ。少しでも貰えるだけありがたいと思いなさい」
「はいはい。ありがた~くいただきます」
 それでも嬉しそうなユリアンから、エレンは顔を背けたのだった。

<シノン組ホワイトデー/トーマス&ユリアン→サラ>
「サラ、一ケ月前のお返しだ。オレとユリアンの二人から、ということで」
「ありがとう。さっそく開けてみてもいい?」
「どうぞ。簡単なものだけど」
 トーマスから渡された箱を開くと、中には花型のラズベリージャムサンドクッキー。サラの口から、感嘆の声が漏れる。
「わぁ、かわいいしおいしそう!」
「花型は、ユリアンのアイディアだよ」
「サラは花が好きだからな。男二人で頭突き合わせて頑張ったんだぜ」
 ユリアンのおどけた言い様に、サラはおかしそうに笑ったのだった。

<シノン組ホワイトデー/ユリアン→エレン>
「エレン。一ケ月前のチョコのお返しなんだけど」
 ユリアンから小さな箱を差し出されて、エレンが目を丸くする。
「お返しって。別にいいのに」
「いや、貰いっぱなしじゃ悪いと思って」
「ま、そういうことなら。開けるわね」
 箱の中には、シュシュやリボンといったアクセサリー。柄もなかなかに好みで、これまた驚きだ。
「ふうん……あんたにしては気が利くじゃない。ありがと」
「へへ、どういたしまして」
 翌日から、たびたびささやかなお洒落を楽しむエレンの姿が見られたのだとか。

<予感/サラ&エレン>
 怖い夢を見たの、と半べそをかきながら起きてきたサラに、エレンが問う。
「どんな夢?」
「誰かに呼ばれて、真っ黒な闇に飲み込まれる夢。怖いよ……」
「大丈夫よ、ただの夢なんだから。もう怖い夢を見なくて済むように、一緒に寝てあげるわ」
「……うん。ありがとう、お姉ちゃん」
 おずおずと隣に入ってくる妹の小さな頭を抱きしめて。なんとしてでもこの子を守ると、改めて心の内に誓った。

<甘いお兄ちゃんたち/幼少シノン組>
 走ってきたサラをエレンが受け止め、注意する。
「あんまり走らないの。転んでケガするわよ」
「おねえちゃんとユリアンはよく走ってるじゃない。どうしてわたしはダメなの?」
「どうしてって、それはあんたがまだ――」
「そうだよな。サラだって、かけっこしたいよな」
「最近は、サラも足が速くなったんだよね」
 横から味方に回るユリアンと、頬を膨らませる少女の小さな頭を撫でるトーマスへ、エレンは大声で反論した。
「二人とも、サラを甘やかさないで! サラはあたしの妹よ!」

<大人か子供か/サラ&トーマス>
 トーマスの手が、サラの頭の上で止まった。宙に浮いた手はすぐに下ろされ、緋色のマントの中へとしまわれる。
(トム……今、私の頭を撫でようとしたのね。でも私が十五になってから、やめるようになった。ユリアンも。大人扱いしてくれるのは嬉しいはずなのに……ちょっと、寂しいな)
 こんな時、自分は姉エレンの言うように、まだまだ子供なのだと思い知らされる。幼少期の頃のスキンシップを思い出し、恋しく思ってしまうのだから。
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