痩せっぽち同盟

「ちょ、ちょっと……お姉ちゃん」
 真向かいに立つ男たちのただならぬ視線に気付き、サラは小声で姉のエレンに呼びかけた。
「? 何よ? サラ」
「とりあえず、ここから離れよう。話は後」
「はあ?」
「いいから」
 半ば強引に姉の手を引っ張り、少女は、男たちが見えなくなる所まで早足で歩いて行く。二人きりになってようやく、サラは再び口を開いた。
「……もう。お姉ちゃんってば本当に無防備というか、無頓着なんだから」
「だから、いったい何のことよ?」
「――さっきの男の人たち、お姉ちゃんの胸を見てたの。覗いてたっていうか……その服だと、ちょっと屈んだりしたら見えちゃうから……」
「……」
 恥ずかしくなったのだろう、語尾は消え入るようだった。だが、内気ながらもしっかり者の妹の観察眼に、エレンは素直に感謝する。
「まったく……男ってしょうがないわね。ま、でも教えてくれてありがと、サラ。今度同じことがあったら、あたしが直接とっちめてやるわ」
 どうやら、衣服自体をどうにかする気はないらしい。男性ならば――いや、同性であっても、つい見てしまうというのに。姉が首周りを覆う服装を嫌っていることを知っているだけに、サラはそっと、諦めの溜め息を吐いた。

(……あの服装じゃ、見るなっていうほうが無理よね……)
 しっかりと衣服に覆われたみずからの胸元を見て、別の意味で溜め息が出た。ボリュームで勝っているのは、後ろ髪だけ。嬉しくない。
「……ん? どうしたんだ、サラ。溜め息なんて吐いて」
 話しかけてきたのは、エレンと同い年の青年ユリアンだった。視線の先には少し前まで一緒にいた姉と、姉やユリアンより二つ年上のトーマス。サラにとっては義理の兄であり、師でもあるような存在だ。
 サラの溜め息の理由に、ユリアンはすぐに気付いたようだった。話し込んでいるエレンたちと少女を交互に見遣ると、ぽん、と肩を軽く叩く。
「サラはまだ十代だろ。これからだって」
「えっ……な、何が?」
「エレンもトムも、イイ体してるもんな。悩むのは、オレも分かるぜ」
「い、いい、体……」
「ナイスバディ、ってやつだ。憧れるよなぁ」
 そう言うなりユリアンは、みずからの平たい胸に手を当てて、
「――って、オレがこっちのボリュームを気にしてどうする」
 おどけた口調に、サラは思わず吹き出した。異性ではあるが、不快感は全く無いのが不思議だ。
「ふふ。よく似た悩みを持つ者同士、だね」
「ああ。こんなことを言うと、エレンはサラへのセクハラだって怒るけどさ。やましい気持ちはまったくないからな。兄ちゃんの一人として、純粋に成長を応援してるぞ」
「私も。ユリアンが〝ナイスバディ〟になれますようにって、応援してるわ」
「おー。お互い、頑張ろうな」
 「痩せっぽち」な二人のひそかな励まし合いに、会話の断片が聞こえたらしいエレンとトーマスが、訝しげに首を傾げたのだった。
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