トムの日2017

「トム、聞いて! 初めて弓で鹿を仕留めたのに、お姉ちゃんに「そんな危ないことするな」って叱られたの。ちょっとくらい、弓の腕が上がったことを褒めてくれたっていいのに」
「ちょっと、トム。サラを一人で森になんて行かせないでよ。ちゃんと見張っておくか、あたしに知らせて」
「……なあ、トム。オレって、そんなに魅力がないのかな……?」
 今日も幼なじみたちから持ち込まれる、数々の訴たえや相談。シノン村の仲良し四人組の中で最年長である「トム」ことトーマスは、いつも相談・仲裁役のようなポジションだ。
「サラは物覚えが早いな。すごいぞ。だが、確かに森に一人で入るのは危険だ。次は、オレたちにも狩りの腕前を見せてくれよ」
「サラには言い聞かせておいたよ。次は四人で行って、サラの弓技を披露してもらおう。で、今日は仕留めた鹿を使って、オレが料理を作る。悪くない話だろう? エレン」
「事を急いだり、変に力が入り過ぎているからじゃないか? 落ち着いて、もっと自分に自信を持て、ユリアン。自然体の時のお前が最も魅力的だと、オレは思うぞ」
 それでも最終的には四人全員が集まり、あれこれと話すことしばらく。夕飯を作って皆に食べさせて、帰ったらまずは読みかけの本の続きでも――こんなことを考えながらパブのキッチンに立ったトーマスを、いつの間にか席を立っていた幼なじみたちが囲む。
「?」
「夕ごはん、作るんでしょ? 手伝うわ」
「鹿をさばくのはあたしがやるわ。力がるからね」
「いつも何かと相談に乗ってもらってるからな。オレだってたまには役に立たないと」
「……ありがとう。そうだな、みんなで作業を分担して作るのも楽しそうだ。だが、できそうにないことがあったら遠慮なく言ってくれよ? オレが教えるかやるかするから」
 料理やお菓子を作るのが好きなサラはともかく、食べる役専門であることが多いエレンとユリアンまでが名乗りを挙げてくれたことが嬉しかった。これはまた、バラエティーに富んだ料理が出来上がりそうだ。
「よし。オレが育てた野菜で、グリーンサラダを作ろう」
「それはいいけど、あんまり大きく切るんじゃないわよ?」
「切らなくていいようにするから大丈夫だ!」
「……」
「……ふふ。お姉ちゃんとユリアンったら、またやってる」
「漫才のようだな。どんなサラダが出来上がるのやら」
「ちぎったり折ったりしただけの野菜の食感も面白いよ。火を通すわけじゃないし、お姉ちゃんだって似たようなものだから」
「……サラ……結構、言うな」
「……言うと怒られるから、内緒ね」
 三人の微妙な関係性を楽しむことができるのも醍醐味だと、つくづく思う。こんな彼らを、できるだけ長く見守っていられたら。
(――そう、できるだけ長く。ずっと、というわけにはいかない。いつかは別れが来るし、サラの『宿命の子』としての力だって、いつどんな形で現れるか……だから、それまでは。人生の分岐点に立たされるその日まで、オレは)
 見守る、というより、共にりたい。そんな本音を胸の内に隠し、トーマスは穏やかな微笑を浮かべながら、仲間たちと共に料理にいそしむのだった。
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