Please love me
「……なあ。あんた、しばらくエレンと二人っきりだったからって、手を出したりなんてしてないだろうな」
ドン、と音を立てて酒の入ったグラスをテーブルに置いたユリアンが、隣に座るハリードに低い声で問い質 した。――出たな、この話題。ハリードは、すっかり目が据わっているユリアンへ即座に否定の言葉を返そうとして、すぐに思い止 まる。
(待てよ。ごく普通に否定したんじゃあ面白くないな。ちょいとからかってやるか)
ふと悪戯心が湧き、ハリードはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべた。そして。
「……さあ、どうだろうな?」
「なっ……!?」
「あれだけの美人だからな。腕っぷしと気は少々強いが、スタイルも抜群と来ている。おまけに、まだ誰のものでもない初心 な娘だ。大抵の男は放ってはおくまい」
「……」
酔って赤らんでいたユリアンの顔が、みるみるうちに青褪めて行く。彼はしばし俯いて体を震わせた後、ぶつぶつと何事かを呟きながら腰に下げた剣に手を掛けた。絶望に打ちひしがれた酔っ払いがいったい何をしでかすか分からないので、さすがのハリードも、ようやく真実を話してやることにする。
「おい、何をするつもりだ。落ち着け。――安心しろ、何もしていない。そもそも俺に、あんな小娘をどうこうする趣味はない。いくら美人でも、あいつは対象外だ」
だが、どうやらこの返答が気に入らなかったらしい。途端にユリアンの赤い瞳に怒りの炎が宿り、彼は勢いよく立ち上がるとハリードをキッと睨みつけた。その剣幕に、周囲の客の視線が一斉に彼らに注がれる。
「あんな小娘? 対象外? とんだ侮辱だな! 失礼にも程がある!」
「……あのなぁ……あいつの貞操が守られたことが嬉しいのか悔しいのか、どっちなんだ」
「エレンはなぁ! オレよりもあんたを高く買ってる! オレには分かるんだ! そりゃそうだろう、剣の腕だって男としての魅力だって、オレはあんたには何一つ敵わないもんな! それなのにあんたは、エレンを貶 めるようなことを言って……」
「貶めてなんぞいない。容姿は褒めただろう。オレはただ、あいつは恋愛対象には入らないと言っただけだ。オレはあの人以外に……いや、それはいい。――飲み過ぎだ、そろそろ部屋に戻れ。うるさくて敵わん」
しっしっ、と鬱陶しそうに手を振ったハリードになおも食い下がろうとしたユリアンだったが、騒ぎを聞きつけたのだろう、いつの間にかトーマスがやってきて、ハリードに「すまんな」と声を掛けると、二つ年下の幼なじみの背を押して酒場から出て行った。ユリアンよりもはるかに度の強い酒を飲んでいるはずなのに酔えない体になってしまった己 に、ハリードはひっそりと自嘲の笑みを浮かべたのだった。
トーマスと共に宿へと戻ったユリアンだったが、「オレは誰にも愛されてないんだ」と泣きつかれ、幼なじみの相変わらずの酒癖の悪さに、トーマスは改めて辟易したのだとか。
ドン、と音を立てて酒の入ったグラスをテーブルに置いたユリアンが、隣に座るハリードに低い声で問い
(待てよ。ごく普通に否定したんじゃあ面白くないな。ちょいとからかってやるか)
ふと悪戯心が湧き、ハリードはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべた。そして。
「……さあ、どうだろうな?」
「なっ……!?」
「あれだけの美人だからな。腕っぷしと気は少々強いが、スタイルも抜群と来ている。おまけに、まだ誰のものでもない
「……」
酔って赤らんでいたユリアンの顔が、みるみるうちに青褪めて行く。彼はしばし俯いて体を震わせた後、ぶつぶつと何事かを呟きながら腰に下げた剣に手を掛けた。絶望に打ちひしがれた酔っ払いがいったい何をしでかすか分からないので、さすがのハリードも、ようやく真実を話してやることにする。
「おい、何をするつもりだ。落ち着け。――安心しろ、何もしていない。そもそも俺に、あんな小娘をどうこうする趣味はない。いくら美人でも、あいつは対象外だ」
だが、どうやらこの返答が気に入らなかったらしい。途端にユリアンの赤い瞳に怒りの炎が宿り、彼は勢いよく立ち上がるとハリードをキッと睨みつけた。その剣幕に、周囲の客の視線が一斉に彼らに注がれる。
「あんな小娘? 対象外? とんだ侮辱だな! 失礼にも程がある!」
「……あのなぁ……あいつの貞操が守られたことが嬉しいのか悔しいのか、どっちなんだ」
「エレンはなぁ! オレよりもあんたを高く買ってる! オレには分かるんだ! そりゃそうだろう、剣の腕だって男としての魅力だって、オレはあんたには何一つ敵わないもんな! それなのにあんたは、エレンを
「貶めてなんぞいない。容姿は褒めただろう。オレはただ、あいつは恋愛対象には入らないと言っただけだ。オレはあの人以外に……いや、それはいい。――飲み過ぎだ、そろそろ部屋に戻れ。うるさくて敵わん」
しっしっ、と鬱陶しそうに手を振ったハリードになおも食い下がろうとしたユリアンだったが、騒ぎを聞きつけたのだろう、いつの間にかトーマスがやってきて、ハリードに「すまんな」と声を掛けると、二つ年下の幼なじみの背を押して酒場から出て行った。ユリアンよりもはるかに度の強い酒を飲んでいるはずなのに酔えない体になってしまった
トーマスと共に宿へと戻ったユリアンだったが、「オレは誰にも愛されてないんだ」と泣きつかれ、幼なじみの相変わらずの酒癖の悪さに、トーマスは改めて辟易したのだとか。
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