年の初めの一大事

「面白い風習を聞いた。東のほうでは、年の初めに大人から子供に『オトシダマ』という名の小遣いをやるそうだ」
 そう前置きしてハリードは、サラに小さな袋を差し出した。当のサラは驚いてハリードを見上げ、少し複雑そうな顔をした後、わずかに頬を膨らませる。
「……私、もう子供じゃないもん」
「何を言う。まだ16だろ? なら充分子供だ。あのボウズと訳アリ嬢ちゃんにも渡したから、三人で何か美味いもんでも食いに行くといい」
 そう言って笑うハリードのかたわらで、ユリアンが驚きに目を見開いて固まっていた。それに気付いたハリードが、訝しげにユリアンを振り返る。
「……何だ? お前らはもう成人してるだろう。小遣いは無いぞ」
「あ、あのドケチなハリードが、誰かに金を配ってる……大変だ、明日は大雪だ……世界が雪で覆われるぞ……!」
「……お前なぁ」
 素早く動いたハリードが、ユリアンにすかさずヘッドロックをかける。
「いたたたた! 痛い、痛いって! 暴力反対!」
「ったく、お前も言動はまだまだ子供だな。そんなだから、いつまで経っても誰かさんに一人前の男扱いをしてもらえないんだぞ」
「うっ」
 痛い所を突かれて一気におとなしくなったユリアンだったが、当のエレンは「あいつら、何じゃれ合ってんの」と呆れ顔で男二人を見つめ、隣にいたトーマスも、ただ苦笑いするばかりだった。
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