サガパラ長月祭・前夜祭への投稿物
<サガパラ長月祭まであと7日>
「お、お姉ちゃん、この服……」
黄色を基調としたディアンドルを着たサラが、エレンに訴えかける。
「何よ?」
「可愛いんだけど、その……結構胸元が空いてて、恥ずかしいというか……」
もじもじと胸元を隠すサラを見て、エレンはふん、と鼻で笑った。エレンも赤色を基調としたディアンドルを着ているが、腰に手を当てて堂々たるものだ。
「あんたは別に隠すところなんてないじゃない。谷間だってないようなものだし」
「うっ……! ひどいよ、お姉ちゃん!」
「でもまあ、変な男に絡まれたりしたらちゃんと守ってあげるわ。ユリアンとトムだっているしね」
「……うん」
せっかくのお祭りだ、できれば仲間たちと思いっきり楽しみたい。たくさん食べてたくさん飲んで(酒は飲まないが)、内気な自分を解放するように、歌って踊りたい。お祭り自体は、好きだから。
「ほら、行くわよ。……ユリアンとトムは……いつもの服か。半ズボンのあの服を着るのは辞退したみたいね」
「そっか。……いつもと違う恰好の二人も、ちょっと見てみたかったな」
ディアンドルを纏っているエレンとサラを見て、駆け寄ってきたユリアンが「可愛い!」と目を輝かせて喜び、トーマスは「二人とも、よく似合っているよ」と穏やかに微笑む。
毎年恒例の、ビールの祭典。今年も四人揃って参加できることに、サラは改めて幸せを噛み締めたのだった。
<サガパラ長月祭まであと4日>
「今後の夜警は当番制ではなく、必ず全員で」。トーマスが出した提案に、三人とも異論はなかった。きっかけは、エレンとサラがシノンの森近くで見たことのないモンスターに出くわし、撃退しようとしたもののほとんど攻撃が通らず、たまらず逃げ出した最中にサラが足を挫き、助けに戻ったエレンともども魔物の餌食になりそうだったところへトーマスの祖父が駆け付け、攻撃術でなんとか追い払った――という昨日の出来事だ。
「二人とも、命に別状はなくて良かったよ。サラはしばらく安静にしてなきゃな」
「ごめんなさい……私が足を挫いたことで、お姉ちゃんにも迷惑をかけちゃって」
「何言ってるのよ。あんたが足を挫かなくたって、二人して危ない目に遭ってたことは変わらないわ。ほんと、トムのおじいさま様様ね」
「おじいさまが『森の方角が騒がしい』と気付かれなかったら今頃、エレンとサラは……改めて、自分の実力不足を痛感したよ。すまない」
「トムは何も悪くないだろ。トムのじいさんとオレたちじゃ、年季が違う。これからみんなで強くなっていこうぜ」
ユリアンの明るい言葉にトーマスは自責の念が少しだけ軽くなった気がしたが、今回の件は、重く受け止めなければならない。村の近くに出没するモンスターにも異変が生じているのは事実だ。
(あの時の死食をきっかけに、世界は少しずつ変わり始めている。それも、悪い方向に。もっと強くならなければ)
この幼なじみたちの笑顔を、守るためにも。四人のリーダーを務める青年は、緋色の外套の下できつく拳を握り締めたのだった。
<サガパラ長月祭まであと3日>
「わあ、雨だ」
突然降ってきた雨に、サラ・少年・エクレア(タチアナ)の三人は、近くの建物の中へと避難するべく走った。だが避難し終わった頃には三人ともずぶ濡れで、髪から衣服からぼたぼたと水滴が滴り落ちて、あっという間に床が水浸しになった。幸い人が住んでいる様子のない空き家だったが、当然ながら熱源はなく、肌に張り付いた衣服がどんどん体温を奪って行く。
「もー、最悪! パンツの中までびっしょびしょ!」
「エ、エクレア……男の子の前でそれは、ちょっとデリカシーが……」
「どうせみんな一緒でしょ! ここで服を脱いで乾かすって言ってるワケじゃ……へっくしょん!」
「大丈夫? ……うう、寒い。このままじゃ、風邪を引いちゃうね。火でも起こせればいいんだけど、私たち、誰も朱鳥術を……っくしゅん!」
くしゃみをして体を震わせる女子二人を見兼ねて、ついに少年が行動を起こした。「ごめん、しばらくじっとしてて」と言った後、両手を広げてサラとエクレアを包み込む。
「……こうして身を寄せ合っていれば、少しは体温を分け合えると思うから……」
「おっ、気が利くね~! ありがとね、ショーネン君!」
「……うん、暖かい。ありがとう。でも、ずっとこのままでいるわけにはいかないよね。雨が上がったら宿屋を探して服を洗って、お風呂にも入ってちゃんと温まろうね」
服越しに伝わってくる少年の体温と、男子らしい硬い腕や胸の筋肉が頼もしい。三人の少年少女は冷えた体を寄せ合い、小声で喋りながら雨が上がるのを待ち続けたのだった。
<サガパラ長月祭まであと1日>
それぞれが所有する商船が襲われたと聞き、トーマスとフルブライト二十三世は海へと繰り出した。ほどなくして目の前に見えてきたのは、絵に描いたような海賊船。誇らしげに船首に立つその男はかつての仲間、ブラックだ。
「ハッハハハア、久しぶりだなぁ! 大金持ちのお坊ちゃんたちが、雁首揃えておでましか」
「……やはり君だったのか。できれば名が同じだけの別人であってほしかったんだが」
「いくら君が相手とはいえ、我々の船に手を出した以上は容赦はせんぞ」
「ハッ、気色の悪いオトモダチごっこはいらねえ。オレ様はオレ様の好きなようにやる。邪魔をするっていうんなら、てめえらごと海の底に沈める。それだけよ」
「……と、言っていますが。どうしますか? フルブライトさん」
困り顔で振り返るトーマスへ、フルブライトは腕を組んでゆっくりと頷く。
「ふむ、やるしかないだろう。彼に降伏する意思がない以上、情けは無用だ」
そう言って、フルブライトが砲撃の指示を出す。共に魔海侯フォルネウスの幻影を打ち倒し、本来の姿と失った片脚を取り戻して喜んでいたブラック。未熟な若者たちを放っておけず、悪態をつきながらもあれこれと面倒を見ていた男。だが今の彼は「敵」であり、海を荒らす「海賊ブラック」なのだ。一時 の思い出に浸り、戦うことを躊躇 っている場合ではない。覚悟を決めて顔を上げたトーマスは鋭い目つきでブラックを見据え、フルブライトと共に船上での戦いに臨むことにしたのだった。
「お、お姉ちゃん、この服……」
黄色を基調としたディアンドルを着たサラが、エレンに訴えかける。
「何よ?」
「可愛いんだけど、その……結構胸元が空いてて、恥ずかしいというか……」
もじもじと胸元を隠すサラを見て、エレンはふん、と鼻で笑った。エレンも赤色を基調としたディアンドルを着ているが、腰に手を当てて堂々たるものだ。
「あんたは別に隠すところなんてないじゃない。谷間だってないようなものだし」
「うっ……! ひどいよ、お姉ちゃん!」
「でもまあ、変な男に絡まれたりしたらちゃんと守ってあげるわ。ユリアンとトムだっているしね」
「……うん」
せっかくのお祭りだ、できれば仲間たちと思いっきり楽しみたい。たくさん食べてたくさん飲んで(酒は飲まないが)、内気な自分を解放するように、歌って踊りたい。お祭り自体は、好きだから。
「ほら、行くわよ。……ユリアンとトムは……いつもの服か。半ズボンのあの服を着るのは辞退したみたいね」
「そっか。……いつもと違う恰好の二人も、ちょっと見てみたかったな」
ディアンドルを纏っているエレンとサラを見て、駆け寄ってきたユリアンが「可愛い!」と目を輝かせて喜び、トーマスは「二人とも、よく似合っているよ」と穏やかに微笑む。
毎年恒例の、ビールの祭典。今年も四人揃って参加できることに、サラは改めて幸せを噛み締めたのだった。
<サガパラ長月祭まであと4日>
「今後の夜警は当番制ではなく、必ず全員で」。トーマスが出した提案に、三人とも異論はなかった。きっかけは、エレンとサラがシノンの森近くで見たことのないモンスターに出くわし、撃退しようとしたもののほとんど攻撃が通らず、たまらず逃げ出した最中にサラが足を挫き、助けに戻ったエレンともども魔物の餌食になりそうだったところへトーマスの祖父が駆け付け、攻撃術でなんとか追い払った――という昨日の出来事だ。
「二人とも、命に別状はなくて良かったよ。サラはしばらく安静にしてなきゃな」
「ごめんなさい……私が足を挫いたことで、お姉ちゃんにも迷惑をかけちゃって」
「何言ってるのよ。あんたが足を挫かなくたって、二人して危ない目に遭ってたことは変わらないわ。ほんと、トムのおじいさま様様ね」
「おじいさまが『森の方角が騒がしい』と気付かれなかったら今頃、エレンとサラは……改めて、自分の実力不足を痛感したよ。すまない」
「トムは何も悪くないだろ。トムのじいさんとオレたちじゃ、年季が違う。これからみんなで強くなっていこうぜ」
ユリアンの明るい言葉にトーマスは自責の念が少しだけ軽くなった気がしたが、今回の件は、重く受け止めなければならない。村の近くに出没するモンスターにも異変が生じているのは事実だ。
(あの時の死食をきっかけに、世界は少しずつ変わり始めている。それも、悪い方向に。もっと強くならなければ)
この幼なじみたちの笑顔を、守るためにも。四人のリーダーを務める青年は、緋色の外套の下できつく拳を握り締めたのだった。
<サガパラ長月祭まであと3日>
「わあ、雨だ」
突然降ってきた雨に、サラ・少年・エクレア(タチアナ)の三人は、近くの建物の中へと避難するべく走った。だが避難し終わった頃には三人ともずぶ濡れで、髪から衣服からぼたぼたと水滴が滴り落ちて、あっという間に床が水浸しになった。幸い人が住んでいる様子のない空き家だったが、当然ながら熱源はなく、肌に張り付いた衣服がどんどん体温を奪って行く。
「もー、最悪! パンツの中までびっしょびしょ!」
「エ、エクレア……男の子の前でそれは、ちょっとデリカシーが……」
「どうせみんな一緒でしょ! ここで服を脱いで乾かすって言ってるワケじゃ……へっくしょん!」
「大丈夫? ……うう、寒い。このままじゃ、風邪を引いちゃうね。火でも起こせればいいんだけど、私たち、誰も朱鳥術を……っくしゅん!」
くしゃみをして体を震わせる女子二人を見兼ねて、ついに少年が行動を起こした。「ごめん、しばらくじっとしてて」と言った後、両手を広げてサラとエクレアを包み込む。
「……こうして身を寄せ合っていれば、少しは体温を分け合えると思うから……」
「おっ、気が利くね~! ありがとね、ショーネン君!」
「……うん、暖かい。ありがとう。でも、ずっとこのままでいるわけにはいかないよね。雨が上がったら宿屋を探して服を洗って、お風呂にも入ってちゃんと温まろうね」
服越しに伝わってくる少年の体温と、男子らしい硬い腕や胸の筋肉が頼もしい。三人の少年少女は冷えた体を寄せ合い、小声で喋りながら雨が上がるのを待ち続けたのだった。
<サガパラ長月祭まであと1日>
それぞれが所有する商船が襲われたと聞き、トーマスとフルブライト二十三世は海へと繰り出した。ほどなくして目の前に見えてきたのは、絵に描いたような海賊船。誇らしげに船首に立つその男はかつての仲間、ブラックだ。
「ハッハハハア、久しぶりだなぁ! 大金持ちのお坊ちゃんたちが、雁首揃えておでましか」
「……やはり君だったのか。できれば名が同じだけの別人であってほしかったんだが」
「いくら君が相手とはいえ、我々の船に手を出した以上は容赦はせんぞ」
「ハッ、気色の悪いオトモダチごっこはいらねえ。オレ様はオレ様の好きなようにやる。邪魔をするっていうんなら、てめえらごと海の底に沈める。それだけよ」
「……と、言っていますが。どうしますか? フルブライトさん」
困り顔で振り返るトーマスへ、フルブライトは腕を組んでゆっくりと頷く。
「ふむ、やるしかないだろう。彼に降伏する意思がない以上、情けは無用だ」
そう言って、フルブライトが砲撃の指示を出す。共に魔海侯フォルネウスの幻影を打ち倒し、本来の姿と失った片脚を取り戻して喜んでいたブラック。未熟な若者たちを放っておけず、悪態をつきながらもあれこれと面倒を見ていた男。だが今の彼は「敵」であり、海を荒らす「海賊ブラック」なのだ。
1/1ページ