4人組+αの日常

「……サラ、それは何をしているんだ?」
 皮付きのままで切って、と言われたリンゴにさらに切り込みを入れているサラへ、トーマスが不思議そうにたずねた。彼は何でも知っていると思っていただけにいささか驚いたが、新しいことを自分から教えられるという喜びに、少女は胸を高鳴らせる。
「有名なリンゴの切り方といえば、ウサギリンゴよ。聞いたことない? おばあちゃんも近所の人たちも、こうしてリンゴを切ってくれることが多いの」
「そうだったのか。普通に切るかエレンが丸ごとかじっているところしか見たことがなかったから、初めて知ったよ」
「丸ごとだと食べにくいし、あごが疲れちゃうんだもん。どうせなら食べやすく、可愛くしたいなって。……トムも一つ、やってみる?」
「ああ、そうだな。せっかくだからやってみるか」

「楽しそうだなー。ウサギリンゴだなんて、いかにもサラが好きそうだよな」
「……あたしはトムが言ってたとおり、丸ごとかじるほうが好きなんだけど」
 キッチンから聞こえてくる楽しげな声に、ユリアンとエレンがぼんやりと呟いた。テーブルの上には、たまには読んでみようと思ったもののわずか数ページで挫折した本が放置されている。彼らもサラ同様トーマスを慕う者たちだが、トーマスの趣味の一つである読書には、どうしても傾倒できないようだ。
「エレンはシンプルでワイルドだもんな。ウサギリンゴを見てカワイイ〜♡なんて言ったら、真っ先にニセモノなんじゃないかって疑うぜ」
「……なんだか物凄くイラッとしたけど、あたし自身もそう思うわ」
「でも、そんな所も――」
「どうせなら、紅茶も欲しいわね」
 ユリアンの何度目か分からない告白はぶっつりと遮られ、エレンもキッチンへと入って行った。またもや玉砕。いつもどおりの結果だ。――いや、それよりも。
「……って、オレだけ仲間はずれみたいじゃないか! じゃあオレは、テーブルに並べるの担当な!」
 置いてきぼりは嫌だ。そんな子供じみた感情を「働かざる者食うべからず」という言葉にすり替え、ユリアンもキッチンへと飛び込んで行ったのだった。

~後日談~

「――トーマス。これは?」
「ウサギを模したリンゴ、だそうです。サラから教わりました。女性の間では有名で、人気のある切り方らしいですよ」
「……そうか」
 翌日、シノン村一の豪農・ベント家。
 その一室には、孫が切った可愛らしいウサギ型のリンゴと対峙する厳つい老爺ろうやの姿があった。
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