本好きの幼なじみの悪気のない厚意が少しつらい
「体の具合はどうだ? ユリアン」
部屋の外から聞こえた声に、ベッドでうとうととしていたユリアンはがばっと体を起こして床に下り、少しだけドアを開けた。そこにいたのはトーマスのみで、エレンとサラの姿はない。
「トム、来てくれたのか」
「熱を出して寝込んでいると聞いてな。エレンとサラも来たいと言っていたんだが、万が一のことを考えて、見舞いはオレのみにしたんだ。お前がもう少し回復したら、彼女たちにも同行してもらうつもりだが」
「はは……下手に全員で会って全員にうつって四人全滅、なんてことになったらそれこそ大変だもんな。トム一人が倒れても十分大変だけどさ」
「オレは、比較的丈夫だから。もちろん油断は禁物だがな。――その様子だと、さほど深刻な状況ではないな。ここ最近の寒さで、体を冷やしてしまったか」
トーマスの言葉に、ユリアンは苦笑する。
「みたいだな。肉体労働をしていれば汗を掻くし、多少薄着でいても大丈夫だって思ってたらこのザマだ。……ああ、今は薬が効いているのもあって熱は下がってるよ。まだちょっとだるいけど」
「そうか。怠 さが残っているのなら、まだまだ安静にしていたほうがいいな。……ところで、そこまで元気そうなら退屈してないか? 暇つぶしになりそうな本を何冊か持ってきたんだが」
「げっ」
そう言って自宅から持ってきた本を取り出したトーマスを見て、ユリアンは思わず嫌そうな声を上げてしまった。だがトーマスはそんなことなど意に介さず、にこやかに話を進める(このトーマスという人は、大好きな本が絡むと少々厄介な存在になるのだ)。
「退屈しのぎの定番と言えば、やはり読書だろう。本を読んで知識を深めることはいつでも役立つし、新しいことを学ぶいい機会でもある。あまり本を読み慣れていないお前のためになるべく気軽に読める本を選んだつもりだが、少しでも気になった本があれば、すぐに同系列の本も用意しよう。返却はいつでもいいから、ゆっくりじっくり読むといい」
「ああ……うん……(これ、どう考えても好きなものを語る時の饒舌早口オタクのアレだよなぁ……)」
普段は冷静沈着なトーマスのこんな一面を垣間見れることは悪くはないのだが。勢いで本を受け取ってしまった(半ば押し付けられたとも言う)ユリアンは、別れの言葉を口にして去って行ったトーマスの後ろ姿を見送りながら、自らの本への苦手意識と返却時に求められるであろう感想をどう言うべきか考えて、少しだけ憂鬱になったのだった。
部屋の外から聞こえた声に、ベッドでうとうととしていたユリアンはがばっと体を起こして床に下り、少しだけドアを開けた。そこにいたのはトーマスのみで、エレンとサラの姿はない。
「トム、来てくれたのか」
「熱を出して寝込んでいると聞いてな。エレンとサラも来たいと言っていたんだが、万が一のことを考えて、見舞いはオレのみにしたんだ。お前がもう少し回復したら、彼女たちにも同行してもらうつもりだが」
「はは……下手に全員で会って全員にうつって四人全滅、なんてことになったらそれこそ大変だもんな。トム一人が倒れても十分大変だけどさ」
「オレは、比較的丈夫だから。もちろん油断は禁物だがな。――その様子だと、さほど深刻な状況ではないな。ここ最近の寒さで、体を冷やしてしまったか」
トーマスの言葉に、ユリアンは苦笑する。
「みたいだな。肉体労働をしていれば汗を掻くし、多少薄着でいても大丈夫だって思ってたらこのザマだ。……ああ、今は薬が効いているのもあって熱は下がってるよ。まだちょっとだるいけど」
「そうか。
「げっ」
そう言って自宅から持ってきた本を取り出したトーマスを見て、ユリアンは思わず嫌そうな声を上げてしまった。だがトーマスはそんなことなど意に介さず、にこやかに話を進める(このトーマスという人は、大好きな本が絡むと少々厄介な存在になるのだ)。
「退屈しのぎの定番と言えば、やはり読書だろう。本を読んで知識を深めることはいつでも役立つし、新しいことを学ぶいい機会でもある。あまり本を読み慣れていないお前のためになるべく気軽に読める本を選んだつもりだが、少しでも気になった本があれば、すぐに同系列の本も用意しよう。返却はいつでもいいから、ゆっくりじっくり読むといい」
「ああ……うん……(これ、どう考えても好きなものを語る時の饒舌早口オタクのアレだよなぁ……)」
普段は冷静沈着なトーマスのこんな一面を垣間見れることは悪くはないのだが。勢いで本を受け取ってしまった(半ば押し付けられたとも言う)ユリアンは、別れの言葉を口にして去って行ったトーマスの後ろ姿を見送りながら、自らの本への苦手意識と返却時に求められるであろう感想をどう言うべきか考えて、少しだけ憂鬱になったのだった。
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