Night party

 しっかりと手を繋ぎ、向かい合って体を密着させ、ステップを踏み、優雅に回る。トーマスのリードは見事なもので、ダンスが終わってからも、サラはぼうっと熱に浮かされていた。子供の頃から知る幼なじみ同士ではなく、大人の男性に一人の女性として扱われた、そんな気がする。
「……トムって、ほんとに何でもできるよね……」
「ははは、上手くリードできるか少し不安だったんだが、なんとかなったな。サラもちゃんと踊れてたよ。ドレス姿も相まって、淑女、って感じだった」
「そうかな? えへへ。トムも紳士、って感じでかっこよかったよ。……ずっと緊張しっぱなしだったけど、トムのおかげで楽しく踊れたわ。まだちょっと、夢心地。でも、村のお祭りで踊る時はお姉ちゃんのほうが張り切って――あれ? お姉ちゃんは?」
 サラとトーマスが同じ方向を見遣ったが、いつの間にかエレンの姿がない。そのそばにいたはずの、ユリアンの姿も。
「人混みの中には……いないみたいだね。どこに行っちゃったんだろう?」
「大丈夫、きっとすぐに戻ってくるさ。――ところでもう一曲、お願いできるかな?」
「! はい、喜んで」
 会場に新たな曲が流れ始め、トーマスが手を差し伸べる。サラは迷わずその手を取り、二人は再び一組の紳士と淑女と化した。

 一方、その頃。
「あ、いたいた、エレン。捜したんだぞ」
 バルコニーに出て一人溜め息を吐いているエレンの元へ、ユリアンがやってきた。彼のことだから既に酒に酔っていい気分になっているものかと思ったが、どうやらそうでもないようだ。
「疲れたのか? 実はオレも。慣れない服を着ている上、あの人混みだもんな。正直、早くいつもの服に着替えて村に帰りたいぜ」
「そういう服を着てても、やっぱり中身はあんたのままね。ま、あたしも人のことは言えないけど。……トムはともかく、サラが楽しそうなのが意外だわ。あの子、いざとなったらあたしより度胸が据わってるかも」
「サラは強い子だし、エレンが思っているよりずっと大人だぞ。頼れるトムが傍にいるっていうのも大きいんだろうけど、これからもっと化けると、オレは思うな」
「……」
 夜空に次々と打ち上げられる花火が美しい。それを静かに見つめるエレンにならって、ユリアンも隣に並んで花火を見上げる。
「……きれいだな」
「……そうね。シノンでは、こういう景色は見られないしね」
「せっかくの機会なんだ、オレたちはオレたちで、大人の夜を過ごすことにしようぜ。……あ、変な意味じゃなくてさ」
「分かってるわよ。……たまにはこういうのも、悪くはないかもね」
「だろ? 乾杯しよう、乾杯」
 ユリアンがシャンパングラスを、エレンがカクテルグラスを掲げ、「乾杯」と同時に口にする。自分を気遣ってくれているユリアンに、エレンはそっと心の中で感謝したのだった。
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