流浪の王族と緑髪の開拓民
※ユリアンがプリンセスガードにならなかったルート
戦士としてはもちろん、人間としても、己 よりはるかに上を行く男であることは分かっていた。仲間たちも彼を頼りにし、皆揃って尊敬の眼差しを向けていることも。
相手は十歳以上年上の男なのだから当然と言えば当然なのだろうが、自分は、二歳しか違わない同性の幼なじみにすら劣っている有様だ。――ほら、今だって。片想いしている同年齢の幼なじみが、目を輝かせて優れた男たちの戦いぶりを褒め称えている――。
「随分シケた顔をしているな、青年」
宿の一室に篭り、無心で剣の手入れをしていたユリアンの元へ、同じ剣士である男、ハリードがやってきた。己 が不機嫌であることなど、お見通しのようだ。
「……あんたの部屋はここじゃないだろ? 何の用だよ」
「まあ、そう言うな。仲間の元気が無かったら、様子を見に来るのは当然だろう」
「……」
ハリードは、目を逸らして黙り込んでしまったユリアンに近付くと、その肩を荒々しく抱き寄せた。驚いたユリアンが慌てて剣を横に置き、身を捩 りながらハリードに抗議する。
「あぶっ、危ないだろ! いきなり何するんだよ! 放せって!」
「――もっと、自分に自信を持て。お前には、自尊心が足りない」
「!」
今、最も指摘されたくなかった言葉がかけられ、ユリアンの顔が、カッと熱くなった。彼はハリードをキッと睨むと、口を尖らせて反論する。
「……あんたにオレの何が分かるんだ。何でも持ってる人間に、オレの気持ちなんて……」
「オレが何でも持っている人間だと? それは違うな。ただの経験の差だ。今のお前には、自信と経験が足りないだけさ」
「そうかなぁ。何年経っても、オレはあんたやトムみたいな大人の男になれる気がしないんだけど」
ぼそぼそと吐き出された弱気な言葉に、ハリードは、年若い青年を励ますようにその肩をぽんぽんと叩いた。一見華奢だが彼の体は意外と厚みがあり、前線で戦う剣士としての筋肉はしっかりとついていることが分かる。きっと、幼い頃から鍛錬を重ねてきたのだろう。大切な人たちを守るために、大切な人たちに、一人前の男として認めてもらうために。言わばこの青年は、原石だ。
ハリードはユリアンを解放し、代わりに鮮やかな黄緑髪をくしゃりと撫でた。そして。
「まったく新しい世界に飛び込めば、心身共に一気に成長するだろうと思っていたんだがな。せっかくのオレの推挙をあっさり断りやがって。まあ、惚れた女の傍 に居たかったって気持ちも分からんでもないが……剣のほうは同じ剣士として、オレが鍛えてやってもいい。お前の剣技は、かなり粗削りだからな」
「うっ……それはちょっと、申し訳なく思ってるよ。でもオレはやっぱり、みんなと一緒にいたかったんだ。それはそうと……剣の師匠になってくれるって、本当か!?」
「おう。強くなりたいんだろう? 幸い、人に教えるのは慣れているんでな。破格の料金で教えてやるよ」
「金取るのかよ! ……ちなみに、何オーラムで?」
「一日五百オーラム」
「一日五百オーラム!? がめつっ! そんな金額、ド庶民のオレに払えるワケないだろ!!」
部屋中に響いたユリアンの声に、ハリードは、実に愉快そうに笑ったのだった。
戦士としてはもちろん、人間としても、
相手は十歳以上年上の男なのだから当然と言えば当然なのだろうが、自分は、二歳しか違わない同性の幼なじみにすら劣っている有様だ。――ほら、今だって。片想いしている同年齢の幼なじみが、目を輝かせて優れた男たちの戦いぶりを褒め称えている――。
「随分シケた顔をしているな、青年」
宿の一室に篭り、無心で剣の手入れをしていたユリアンの元へ、同じ剣士である男、ハリードがやってきた。
「……あんたの部屋はここじゃないだろ? 何の用だよ」
「まあ、そう言うな。仲間の元気が無かったら、様子を見に来るのは当然だろう」
「……」
ハリードは、目を逸らして黙り込んでしまったユリアンに近付くと、その肩を荒々しく抱き寄せた。驚いたユリアンが慌てて剣を横に置き、身を
「あぶっ、危ないだろ! いきなり何するんだよ! 放せって!」
「――もっと、自分に自信を持て。お前には、自尊心が足りない」
「!」
今、最も指摘されたくなかった言葉がかけられ、ユリアンの顔が、カッと熱くなった。彼はハリードをキッと睨むと、口を尖らせて反論する。
「……あんたにオレの何が分かるんだ。何でも持ってる人間に、オレの気持ちなんて……」
「オレが何でも持っている人間だと? それは違うな。ただの経験の差だ。今のお前には、自信と経験が足りないだけさ」
「そうかなぁ。何年経っても、オレはあんたやトムみたいな大人の男になれる気がしないんだけど」
ぼそぼそと吐き出された弱気な言葉に、ハリードは、年若い青年を励ますようにその肩をぽんぽんと叩いた。一見華奢だが彼の体は意外と厚みがあり、前線で戦う剣士としての筋肉はしっかりとついていることが分かる。きっと、幼い頃から鍛錬を重ねてきたのだろう。大切な人たちを守るために、大切な人たちに、一人前の男として認めてもらうために。言わばこの青年は、原石だ。
ハリードはユリアンを解放し、代わりに鮮やかな黄緑髪をくしゃりと撫でた。そして。
「まったく新しい世界に飛び込めば、心身共に一気に成長するだろうと思っていたんだがな。せっかくのオレの推挙をあっさり断りやがって。まあ、惚れた女の
「うっ……それはちょっと、申し訳なく思ってるよ。でもオレはやっぱり、みんなと一緒にいたかったんだ。それはそうと……剣の師匠になってくれるって、本当か!?」
「おう。強くなりたいんだろう? 幸い、人に教えるのは慣れているんでな。破格の料金で教えてやるよ」
「金取るのかよ! ……ちなみに、何オーラムで?」
「一日五百オーラム」
「一日五百オーラム!? がめつっ! そんな金額、ド庶民のオレに払えるワケないだろ!!」
部屋中に響いたユリアンの声に、ハリードは、実に愉快そうに笑ったのだった。
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