男二人、水入らず

 ドフォーレ商会を買収し、アビスリーグを壊滅させ、フルブライト商会をも超えて『トーマスカンパニー』は、晴れて世界一の会社となった。社長としてやれるだけのことはやったと、青年は、澄んだ青い空を仰ぐ。
 『破壊するもの』を倒したことで、世界そのものの造りまでが変わった。ならばもう、一つ所でじっとしてなんていられない――だからトーマスは、旅に出ることにした。新たな世界を見てまわるために、新しいことを始めるために。はとこには会社の今後のことで嘆かれたが、トーマスの決意は揺らがなかった。シノンにいる祖父や幼なじみたちとも、しばらくお別れだ。
(さて……まずは、どこに――)
「世界一位の会社の社長が、護衛もつけずに一人旅か?」
 聞き覚えのある声にトーマスが驚いて振り返ると、そこには二つ年下の幼なじみであるユリアンが立っていた。腕を組み、少々呆れたような顔をしている。
「……ユリアン、どうしてここに……シノンに帰ったんじゃなかったのか?」
「帰ったよ、いったんは。寝込んでるサラのことも心配だったからさ。でもサラにはエレンがいるし、じゃあトムはって言ったら帰りの船の中でも心ここにあらずって感じで、このとおりさっさとピドナから飛び出してるじゃないか。死の宿命が無くなった世界とはいえ、危険がまったく無くなったわけじゃないからな。いくらトムが何でもこなせるからって、一人旅は不用心過ぎるぜ」
 そう言ってユリアンは腰に下げた竜鱗の剣に手をやり、ニッと笑った。今や彼も、一流の剣士。エレンに負かされるたびに泣いていた小さく頼りない少年は、もういない。
「というわけで、護衛はオレに任せてくれよ。少なくとも、足手纏いにはならないと思うし。あとオレも、サラと少年が再生して生まれ変わった世界を見てみたいんだ。目的は、一致してるだろ?」
「それはそうだが……お前には、少々退屈で窮屈な旅になるかもしれないぞ? 各所の要人と顔を合わせたり交渉したりする場面もあるだろうからな」
「全然構わないよ。その時は影のように付き従って、邪魔にならないようにするからさ。メシのことだって、トムばっかりに頼らないように、頑張って勉強する。だから、な? いいだろ?」
 頼むよ、と言うように両手を合わせるユリアンに、トーマスはふう、と溜め息を吐いた。ここまで言われては、同行を許可しないわけにはいかない。いな、勝手知ったる仲のユリアンがついてきてくれるのであれば、かなり心強い。道中も、楽しくなりそうだ。
「……分かった。ならば、一緒に行こう。お前が作るメシも楽しみにしているぞ」
「! やったぜ、ありがとな、トム! じゃあ、行こう!」
 嬉しそうに目を輝かせた後、ユリアンは早足でトーマスに追いつき、彼と肩を並べた。トーマスもふ、と小さく笑い、前方に向かってゆっくりと足を踏み出す。
 どこまでも広がる青い空と緑の大地の、その先へ。二人の青年の気ままな旅は、こうして始まったのだった。
1/1ページ