トムの日2020
「トム、誕生日おめでとう!」
幼なじみたちから顔を見るなり祝福されて、「トム」ことトーマスは、穏やかに微笑む。
「ありがとう。今年もみんなに祝ってもらえて嬉しいよ」
「毎年みんなで祝い合ってるけど、今年は特別って感じだよな。だってトムは“ハタチ”になったんだぜ? 二十代。真の大人だ」
ユリアンが言えば、
「あたしたちだって、あと二年で二十歳になるじゃない。それまでに、少しでもトムみたいな落ち着いた大人の男を目指すことね」
エレンのこの言葉に、むっとした表情のユリアンも負けじと言い返す。
「……そういうエレンこそ、もっと落ち着いたらどうなんだよ。正直、今のエレンは女子としてはサラに負けて――」
「……何ですって?」
「ちょ、ちょっと、お姉ちゃん、ユリアン! ああ、また……ごめんね、トム……」
今にもユリアンに掴みかからんとする姉エレンを慌てて引き戻しながら、四人の中で最も年少であるサラが、心底申し訳なさそうに謝った。すっかり見慣れた光景に、トーマスは苦笑いを浮かべつつ、仲裁に入る。
「二人とも、生来の性格を曲げてまで無理に〝大人〟になる必要はないと思うぞ。ある程度の落ち着きは必要だが、オレはユリアンの明るさや行動力、エレンのはっきりとした物言いや腕っぷしの強さに何度も助けられている。もちろん、サラの賢さや器用さにもな。
ただ、少々言い過ぎたり、すぐに手が出たりするところはいただけないな。いくら気心の知れた仲間でも、慎 みは持たないと」
「うっ……悪かったよ。確かに、言い過ぎた」
「あたしが最初に余計なことを言ったから、だよね。ごめん」
険悪になりかけていたユリアンとエレンを見事に仲直りさせたトーマスを、サラは尊敬の眼差しで見つめた。だがすぐに我に返ると、真剣な表情でトーマスと向かい合う。
「? どうしたんだ? サラ」
「あのね、トム。トムが二十歳になったお祝いに、いつもと違うちょっと高価なプレゼントを、三人で一生懸命考えたの。でもトムの家はお金持ちだから、私たちが買えるようなものは全部持ってるだろうって。だから、その……結局、いつもとあまり変わらないプレゼントになっちゃって……」
しゅんと俯 くサラたちを見て、トーマスは小さく溜め息を吐いた。少し困ったような微笑を浮かべ、彼は静かに答える。
「何を言うんだ、いつもどおりでいいよ。みんなから貰える毎年恒例のプレゼントは、オレにとって何よりも嬉しいものだ。オレが二十歳になったからといって、無理はしなくていいんだよ。高価なものばかりが価値があるわけじゃない。
――だが二十歳というのは、確かに人生の節目ではある。というわけで、今夜はおじいさまが料理を振る舞ってくれることになっているんだが……みんなも、一緒にどうだ?」
「……えっ?」
「え?」
「ええっ!?」
突然の言葉にぽかんと口を開ける三人へ、サプライズが成功したことに満足したトーマスは、朗 らかに笑った。そして、
「おじいさまの許可はちゃんと取ってある。大丈夫だ、さすがに食事の時まで怖い顔をしたりはしないよ。今日のために取り寄せておいた食材を使った料理も出るから、ぜひ食べに来てくれ」
食べ盛りの若者たちが、さぞ豪勢であろうベント家の料理の誘惑に抗 えるはずもなく。
「い、行く行く! 今すぐウチに許可を貰ってくるから、ちょっと待っててくれよ!」
「……ばあちゃんも呼んでいい? ばあちゃんも、トムの誕生日を祝いたがってたし」
「ああ、もちろん。カーソン農場のおばあさまにも、昔からよく世話になっているからね」
「ありがとう、トム。おばあちゃん、今日は朝早くからパンやお菓子をたくさん作るって張り切ってたから、それも持って行くね。とっても豪華な誕生日パーティーになりそう!」
それぞれの家へと駆けて行く三人の幼なじみたちを見送り、トーマスもまた、客が一人増えることを伝えるために家へと戻って行った。常に沈着冷静な彼にしては珍しく、喜びを隠せない顔で。
再び集まった時、ユリアン、エレン、サラの三人は、ささやかながらも心のこもったプレゼントをトーマスに贈った。
そしてこの日の夜の料理の豪華さはもちろん、厳しいことで有名なトーマスの祖父が終始穏やかであったことが、二年経った今でも度々話題に上っている。
幼なじみたちから顔を見るなり祝福されて、「トム」ことトーマスは、穏やかに微笑む。
「ありがとう。今年もみんなに祝ってもらえて嬉しいよ」
「毎年みんなで祝い合ってるけど、今年は特別って感じだよな。だってトムは“ハタチ”になったんだぜ? 二十代。真の大人だ」
ユリアンが言えば、
「あたしたちだって、あと二年で二十歳になるじゃない。それまでに、少しでもトムみたいな落ち着いた大人の男を目指すことね」
エレンのこの言葉に、むっとした表情のユリアンも負けじと言い返す。
「……そういうエレンこそ、もっと落ち着いたらどうなんだよ。正直、今のエレンは女子としてはサラに負けて――」
「……何ですって?」
「ちょ、ちょっと、お姉ちゃん、ユリアン! ああ、また……ごめんね、トム……」
今にもユリアンに掴みかからんとする姉エレンを慌てて引き戻しながら、四人の中で最も年少であるサラが、心底申し訳なさそうに謝った。すっかり見慣れた光景に、トーマスは苦笑いを浮かべつつ、仲裁に入る。
「二人とも、生来の性格を曲げてまで無理に〝大人〟になる必要はないと思うぞ。ある程度の落ち着きは必要だが、オレはユリアンの明るさや行動力、エレンのはっきりとした物言いや腕っぷしの強さに何度も助けられている。もちろん、サラの賢さや器用さにもな。
ただ、少々言い過ぎたり、すぐに手が出たりするところはいただけないな。いくら気心の知れた仲間でも、
「うっ……悪かったよ。確かに、言い過ぎた」
「あたしが最初に余計なことを言ったから、だよね。ごめん」
険悪になりかけていたユリアンとエレンを見事に仲直りさせたトーマスを、サラは尊敬の眼差しで見つめた。だがすぐに我に返ると、真剣な表情でトーマスと向かい合う。
「? どうしたんだ? サラ」
「あのね、トム。トムが二十歳になったお祝いに、いつもと違うちょっと高価なプレゼントを、三人で一生懸命考えたの。でもトムの家はお金持ちだから、私たちが買えるようなものは全部持ってるだろうって。だから、その……結局、いつもとあまり変わらないプレゼントになっちゃって……」
しゅんと
「何を言うんだ、いつもどおりでいいよ。みんなから貰える毎年恒例のプレゼントは、オレにとって何よりも嬉しいものだ。オレが二十歳になったからといって、無理はしなくていいんだよ。高価なものばかりが価値があるわけじゃない。
――だが二十歳というのは、確かに人生の節目ではある。というわけで、今夜はおじいさまが料理を振る舞ってくれることになっているんだが……みんなも、一緒にどうだ?」
「……えっ?」
「え?」
「ええっ!?」
突然の言葉にぽかんと口を開ける三人へ、サプライズが成功したことに満足したトーマスは、
「おじいさまの許可はちゃんと取ってある。大丈夫だ、さすがに食事の時まで怖い顔をしたりはしないよ。今日のために取り寄せておいた食材を使った料理も出るから、ぜひ食べに来てくれ」
食べ盛りの若者たちが、さぞ豪勢であろうベント家の料理の誘惑に
「い、行く行く! 今すぐウチに許可を貰ってくるから、ちょっと待っててくれよ!」
「……ばあちゃんも呼んでいい? ばあちゃんも、トムの誕生日を祝いたがってたし」
「ああ、もちろん。カーソン農場のおばあさまにも、昔からよく世話になっているからね」
「ありがとう、トム。おばあちゃん、今日は朝早くからパンやお菓子をたくさん作るって張り切ってたから、それも持って行くね。とっても豪華な誕生日パーティーになりそう!」
それぞれの家へと駆けて行く三人の幼なじみたちを見送り、トーマスもまた、客が一人増えることを伝えるために家へと戻って行った。常に沈着冷静な彼にしては珍しく、喜びを隠せない顔で。
再び集まった時、ユリアン、エレン、サラの三人は、ささやかながらも心のこもったプレゼントをトーマスに贈った。
そしてこの日の夜の料理の豪華さはもちろん、厳しいことで有名なトーマスの祖父が終始穏やかであったことが、二年経った今でも度々話題に上っている。
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