トムの日2019
「なあ。エレンは、トムが好きなのか?」
「……はあ?」
ユリアンから突然投げかけられた質問に、エレンが目を丸くする。
「だってさ、トムに対しては妙に素直だし、時々二人で何か話し込んでるし。なのに、オレには全然じゃないか」
拗 ねたように呟くユリアンへ、エレンは盛大な溜め息を吐いた後に答えた。
「そりゃあ、好きか嫌いかで言われたら好きよ。いつも一緒にいる幼なじみだしね。トムはあたしたちの中で最年長だし頼りになるから、頼ってるだけ。それ以上の感情は持ってないわ」
「そ、そっか」
非常にさっぱりとした物言いに、彼女の言葉は本心なのだと確信し、少し安堵する。そこへ、「トム」ことトーマスと共にキッチンに立っていたサラが、出来上がった料理を運んで来た。トーマスが戻ってくる前にと、ユリアンは、サラにも同じ質問をしてみることにする。
「なあ。サラはトムのこと、好きか?」
「えっ? もちろん好きだけど……いきなり何?」
「それは、どういう意味での……」
「ちょっと、ユリアン。サラはまだ手伝い中よ」
たまらずエレンが咎めたが、サラは特に気分を害した様子もなく続ける。
「……色々なことを教えてくれる、本当のお兄さんみたいに思ってるわ。もちろん、ユリアンのことも。ユリアンだってトムのこと、好きよね?」
「……あ、ああ、うん」
無垢な笑顔で返されて、頷くしかなかった。ユリアン自身もトーマスのことは兄のように慕っているのだから、確実に「好き」だ。そう改めて考えると、なんともくすぐったい気持ちになる。「好き」=必ずしも「恋愛感情」ではないのだ。
「……オレたちいちおう年頃の男女なのに、ちっとも色気がないよなー」
それでもちくりと嫌味を言えば、
「あんたが一人で浮かれてるだけでしょ。あたしたちは家族みたいなものなんだから、何も期待しないことね」
エレンの冷めた返事と同時に、サラが持ちきれなかった料理を手にしたトーマスが姿を現す。
「お待たせ。何の話をしていたんだ?」
「んー、……ヒミツ!」
「おいおい、そう言われると余計に気になるじゃないか」
「私たち、みんなトムが大好きだよね、って話をしてたの」
「あっ、サラ!」
「うん……? そうか、ありがとう。どうしてそんな話をしていたのかは知らないが、オレもみんなのことが好きだよ」
三人を見回して柔らかく微笑むトーマスに、エレンとサラが微笑み返し、ユリアンはばつが悪そうに肩を竦 めた。トーマスが三人に向けて言った「好き」は平等で、深い意味はないのだろう。――もう、この場の空気に呑まれるしかない。きっと今は、これでいいのだ。
(……家族みたいなもの、か。まあ、オレもみんなが大切なのに変わりはないからな。いつまで一緒にいられるか分からないんだ、今のこの時間を大事にしないとな)
「さあ、食べようか。……どうした、ユリアン?」
「あ、ああ、なんでもない。食べるか!」
目の前には幼い頃から食べてきた、大好きなトーマスの手料理。――大好きな人たちと、共に。
「それじゃ……いただきます!」
「いただきます」
「いただきます!」
パブに響く元気な声と溢れる笑顔に、トーマスは今一度幼なじみたちを見回し、柔らかな笑みを浮かべたのだった。
「……はあ?」
ユリアンから突然投げかけられた質問に、エレンが目を丸くする。
「だってさ、トムに対しては妙に素直だし、時々二人で何か話し込んでるし。なのに、オレには全然じゃないか」
「そりゃあ、好きか嫌いかで言われたら好きよ。いつも一緒にいる幼なじみだしね。トムはあたしたちの中で最年長だし頼りになるから、頼ってるだけ。それ以上の感情は持ってないわ」
「そ、そっか」
非常にさっぱりとした物言いに、彼女の言葉は本心なのだと確信し、少し安堵する。そこへ、「トム」ことトーマスと共にキッチンに立っていたサラが、出来上がった料理を運んで来た。トーマスが戻ってくる前にと、ユリアンは、サラにも同じ質問をしてみることにする。
「なあ。サラはトムのこと、好きか?」
「えっ? もちろん好きだけど……いきなり何?」
「それは、どういう意味での……」
「ちょっと、ユリアン。サラはまだ手伝い中よ」
たまらずエレンが咎めたが、サラは特に気分を害した様子もなく続ける。
「……色々なことを教えてくれる、本当のお兄さんみたいに思ってるわ。もちろん、ユリアンのことも。ユリアンだってトムのこと、好きよね?」
「……あ、ああ、うん」
無垢な笑顔で返されて、頷くしかなかった。ユリアン自身もトーマスのことは兄のように慕っているのだから、確実に「好き」だ。そう改めて考えると、なんともくすぐったい気持ちになる。「好き」=必ずしも「恋愛感情」ではないのだ。
「……オレたちいちおう年頃の男女なのに、ちっとも色気がないよなー」
それでもちくりと嫌味を言えば、
「あんたが一人で浮かれてるだけでしょ。あたしたちは家族みたいなものなんだから、何も期待しないことね」
エレンの冷めた返事と同時に、サラが持ちきれなかった料理を手にしたトーマスが姿を現す。
「お待たせ。何の話をしていたんだ?」
「んー、……ヒミツ!」
「おいおい、そう言われると余計に気になるじゃないか」
「私たち、みんなトムが大好きだよね、って話をしてたの」
「あっ、サラ!」
「うん……? そうか、ありがとう。どうしてそんな話をしていたのかは知らないが、オレもみんなのことが好きだよ」
三人を見回して柔らかく微笑むトーマスに、エレンとサラが微笑み返し、ユリアンはばつが悪そうに肩を
(……家族みたいなもの、か。まあ、オレもみんなが大切なのに変わりはないからな。いつまで一緒にいられるか分からないんだ、今のこの時間を大事にしないとな)
「さあ、食べようか。……どうした、ユリアン?」
「あ、ああ、なんでもない。食べるか!」
目の前には幼い頃から食べてきた、大好きなトーマスの手料理。――大好きな人たちと、共に。
「それじゃ……いただきます!」
「いただきます」
「いただきます!」
パブに響く元気な声と溢れる笑顔に、トーマスは今一度幼なじみたちを見回し、柔らかな笑みを浮かべたのだった。
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