トムの日2018
完全に、油断していた。気が付いた時には横にいて、体が触れんばかりの距離にまで詰められていたのだ。
「……っ!」
逃げようとする意思に反して、足が竦 む。全身が金縛りに遭ったように硬直し、額から冷や汗が噴き出す。このままでは――。
「トム!」
ああ、仲間たちの呼び声が聞こえる。そうだ、オレは一人じゃない。手間をかけてしまうが、これで今の最悪な状況からは抜け出せるはず。
「こいつはデカいな。トムが固まるわけだ」
大きな黒い犬を撫でながら、ユリアンが笑う。
「確か、――さん家の犬ね。見た目は怖いけど、人懐っこくていい子なのよね」
「トム、大丈夫?」
エレンとサラに覗き込まれて、「トム」ことトーマスは苦笑しながら頷いた。恥ずかしい所を見せてしまったが、仲間たちは至って寛容だ。
「ああ、大丈夫だよ、サラ。みんな、すまんな……助かった」
「つくづく意外だよな。トムの弱点が犬だなんて。トムも人の子、ってわけだ」
「誰にだって苦手なものの一つや二つはあるでしょう。あんまり茶化さないの」
「どうして犬が苦手なんだっけ?」
サラの言葉に、トーマスは、ひと呼吸おいて答える。
「……子供の頃に、犬に追いかけられたあげく押し潰されて顔を舐め回されたことがあってな。まだ小さく幼かったオレには、恐怖でしかなかった。まあ、トラウマだよ」
「いつもしっかり者のトムがおじいさまにしがみついて大泣きしてたって、ばあちゃんが言ってたわ。サラは知らなかったのね」
「……そんなことがあったんだ。それはトラウマにもなっちゃうね」
「はは……」
再び苦笑するトーマスだったが、視線は大きな黒い犬をちらちらと。それに気付いたユリアンとエレンが、顔を見合わせて頷く。
「こいつ、早く帰してやるか」
「そうね。トムは後ろからゆっくり来ればいいからね」
「ああ……ありがとう、ユリアン、エレン」
「ほら、こっち来い! ご主人様の所に帰るぞ!」
大きな黒い犬を連れて先を行くユリアンとエレンを頼もしく思いながら、トーマスはようやく安堵の笑みを浮かべる。その隣にはサラが控え、トーマスと歩調を合わせてのんびり歩くのだった。
「……っ!」
逃げようとする意思に反して、足が
「トム!」
ああ、仲間たちの呼び声が聞こえる。そうだ、オレは一人じゃない。手間をかけてしまうが、これで今の最悪な状況からは抜け出せるはず。
「こいつはデカいな。トムが固まるわけだ」
大きな黒い犬を撫でながら、ユリアンが笑う。
「確か、――さん家の犬ね。見た目は怖いけど、人懐っこくていい子なのよね」
「トム、大丈夫?」
エレンとサラに覗き込まれて、「トム」ことトーマスは苦笑しながら頷いた。恥ずかしい所を見せてしまったが、仲間たちは至って寛容だ。
「ああ、大丈夫だよ、サラ。みんな、すまんな……助かった」
「つくづく意外だよな。トムの弱点が犬だなんて。トムも人の子、ってわけだ」
「誰にだって苦手なものの一つや二つはあるでしょう。あんまり茶化さないの」
「どうして犬が苦手なんだっけ?」
サラの言葉に、トーマスは、ひと呼吸おいて答える。
「……子供の頃に、犬に追いかけられたあげく押し潰されて顔を舐め回されたことがあってな。まだ小さく幼かったオレには、恐怖でしかなかった。まあ、トラウマだよ」
「いつもしっかり者のトムがおじいさまにしがみついて大泣きしてたって、ばあちゃんが言ってたわ。サラは知らなかったのね」
「……そんなことがあったんだ。それはトラウマにもなっちゃうね」
「はは……」
再び苦笑するトーマスだったが、視線は大きな黒い犬をちらちらと。それに気付いたユリアンとエレンが、顔を見合わせて頷く。
「こいつ、早く帰してやるか」
「そうね。トムは後ろからゆっくり来ればいいからね」
「ああ……ありがとう、ユリアン、エレン」
「ほら、こっち来い! ご主人様の所に帰るぞ!」
大きな黒い犬を連れて先を行くユリアンとエレンを頼もしく思いながら、トーマスはようやく安堵の笑みを浮かべる。その隣にはサラが控え、トーマスと歩調を合わせてのんびり歩くのだった。
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