シノン組中心SSまとめ

<シノン組(子供時代)>
ひとしきり騒いだ後、作ってやった料理や菓子は綺麗さっぱり片付いて。たまには読めと差し出した本は、既に寝息を立てているやんちゃな少女と少年の横に。「もう、お姉ちゃんとユリアンったら…ごめんねトム、うるさかったでしょ?」「いつものことさ」申し訳なさそうに謝るサラの頭を、笑って撫でた。

<シノン組>
こちらから捜しに行かなくとも迎えはやってきた。扉を開けた瞬間、幼なじみたちが一斉になだれ込んで来たのだ。「!皆…」「よっ、迎えに来たぞトム!」「当然、あたしも行くからね!」「私も、また一緒に旅がしたい!」揃って見上げてくる弟分と妹分たちに、この上ない愛おしさを覚えた。

<トーマス&フルブライト>
足元に転がる魔物の死骸を、険しい表情で見下ろす。刺客として放って来たのは、間違いなくアビスリーグの手の者だ。「相手が相手、一度では終わらんだろう。日々の鍛錬の成果が出たな」「そうですね…」これが頂点に上り詰めるという事。トーマスの口から深い溜息が漏れた。

<エレン&ユリアン>
同い年だけどあたしよりチビで、腕相撲で負けるたびに泣きべそを掻いてたあいつ。最近急に背が伸びてきたとは思ってたけど、ついに追い抜かれた。…そういえば、肩幅と背中も広くなったな。「ん?どうしたんだよエレン?ついにオレに惚れた?」「何バカ言ってるのよ。投げるわよ」

<サラ&トーマス>
「サラ、髪に…」伸ばされた彼の指には、小さく可憐な一輪の花。どこかで付けて来たらしい。「そのおはな、すてちゃうの?」思わず縋り付けば、彼は優しく微笑んで私の頭を撫でた。「じゃあ、押し花の栞を作ろうか」──もうすっかり古びてしまったけれど。これは私の、大切な宝物。

<エレン&トーマス(幼少期)>
死食を乗り越えて生き残った妹を大人たちは忌み嫌い、恐れた。だから、あの子が頼れるのはあたしだけ。そう思っていたけれど。「エレン、僕も一緒に背負うよ。僕たちで、サラを守ろう」トーマスの言葉に、張り詰めていたものが一気に溢れ出す。この日から、もう泣かないと決めた。

<ユリアン&サラ(幼少期)>
またあの日の夢を見た。死食ですぐに亡くなった妹の、夢。もう、何年も経っているのに。「どうしたの?どこかいたいの?」目を開けると、幼いサラが覗き込んでいた。そして何を思ったか、急に抱き着いてきて――「あのね。わたし、ユリアンがだいすきよ」「…ん。オレもだよ、サラ」

<トーマス&ユリアン(子供時代)>
「おーい、トム!」「何だ?ユリ…」振り返った途端に水を浴びせられ、目を瞬く。当のいたずらっ子は傍の川に足を浸し、満足げな笑顔。「難しい顔してないでさ。たまにはスカッと気晴らししろよ!」再びの攻撃にオレはついに心を決め、「…こいつ…!」靴を脱ぎ捨て駆け出した。

<サラ&エレン(子供時代)>
もう赤ちゃんじゃないんだから、一人で寝なきゃ。だから頑張って、用意してもらったベッドに潜り込んだのに。「きゃあー!」「凄い雷ね。…怖いんでしょう?今日は一緒に寝てあげるから、また明日から頑張りなさい」「うん…ありがとう、お姉ちゃん」…大人への道は、まだ遠いみたい。

<フルブライト&トーマス>
にこやかに話に応じてはいるものの、入口に立ったまま室内へ一歩も入って来ない青年に疑問を抱く。「トーマス君?遠慮はいらん、入りたまえ」「いえ、失礼ながらその…犬が苦手でして」申し訳なさそうに肩を竦める様子にひとしきり笑った後、今後は気を付けようと約束した。

<アビスにて/サラ>
「もう大人だ」なんて意地を張ってごめんなさい。私は、まだまだ子供だった。ユリアンの明るい笑顔と声に迎えられたい、トムの包み込むような温かい手で優しく頭を撫でられたい、大好きなお姉ちゃんに思いっきり抱きしめられたい!だからもう一度、みんなに会いたい。会いたいよ…

<トーマス&姉妹>
「この三人だけだと静かよね~」「ユリアンは元気かな?」「王宮でドジ踏んでないといいけど」「ふふ…お姉ちゃんったら心配性ね」「別に心配なんてしてないわよ!」しっかりやれよ、ユリアン。姉妹の会話を聞きながら、トーマスは遠く離れた場所にいる友に心の中でエールを送った。

<トーマス&フルブライト>
「旅に出るのか。それは惜しいな」男の言葉に、荷支度を済ませた青年が笑う。「改めて世界を歩いてみたくなったので。…では、私はそろそろ」「また立ち寄ってくれたまえ。いつでも歓迎しよう」差し出された手を固く握って頷き合うと、トーマスは身を翻して歩き出した。

<シノン組(子供時代)>
サラから「本を読んで」とせがまれて快諾したものの、すぐに挫折。「はあ~…全然読めてないじゃない」エレンの呆れ声に、ユリアンは年少の少女の手を引いて外へと飛び出す。「天気がいい日は外で遊ぼうぜ!」「ちょっと!待ちなさいよ!」「…やれやれ」最後に、年長のトーマスが続いた。

<少年たちは歌い、奏でる/ユリアン&トーマス(少年期)>
「ん? その歌……」
 ロアーヌ侯国領、辺境の開拓村シノン。
 村全体が見渡せる丘の上に座り、やや調子外れの音程で歌を歌っていたユリアンの隣に、小さな丸眼鏡が印象的な少年がやってきて首を傾げた。声に気付いて歌うのを止めた黄緑髪の少年が、勢いよく振り返る。
「トム! そうそう、この前来てた旅の詩人が歌ってたやつだよ。なんだか妙に頭に残っててさ」
「奇遇だな。実は、オレもなんだ」
「えっ、トムも!?」
 「トム」――正式には「トーマス」――と呼ばれた少年の言葉に、ユリアンが驚いて身を乗り出す。くるくるとよく表情が変わる年下の少年に小さく笑うと、トーマスは、不意に懐から何かを取り出した。彼が手にした物を見て、少年は目を瞬かせる。
「……それ、何?」
「ハーモニカ。聞いたことくらいはあるだろう?最近、趣味で始めたんだ」
「ハーモニカ! ってそれ、吹けるのか!?」
たしなむ程度に、だけどな。
……そうだ。オレがこれを吹くから、ユリアンも一緒に歌ってみないか?」
「あ、ああ! やるやる!」
 かたわらに腰を下ろしたトーマスの言葉に、ユリアンは嬉しそうに頷いた。二人で顔を見合わせて頷き合い、そして――

 ややぎこちないハーモニカの音色と、声変わり前の少年の高い歌声と。
 晴れ渡る青空に、牧歌的な旋律が響き渡った。
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