【小ネタ集】

【猟奇的なマーメイド】


「ウフフ」
ラウンジ内。ジェイドが気色悪い声を出して笑ってたから、なにがおかしーの?おもしろいもんでも見つけた?と聞いたら。
ジェイドは客席の一角を指差した。
そこにいたのはバイト中の小エビちゃんだ。客に謝っているのか、ペコペコと何度も頭を下げている。
「手を滑らせてお客様にドリンクをかけてしまったようで」
「…それの何がおもしれーの?」
「何がって…可愛らしいではありませんか」
小エビちゃんは持ってきたタオルを濡らしてしまった客に渡すと、今度は別の客に呼ばれて忙しそうに走り回っている。
「あー…まぁ…可愛いっちゃ可愛いねぇ」
自分が思う可愛い、とは小さくてまるで稚魚のようにちょこまかと立ち回るその動作が、という意味だ。
だが片割れは違うのだろう。
「…ジェイドの言う小エビちゃんの『可愛い』って…どーゆー意味の『可愛い』なわけ?」
「食べたくなるほど可愛らしい、という意味ですよ」
細く鋭い歯を光らせニヤリと笑うその口元。目元はこれでもかと弧を描いている。

ああ──まぁ分かっちゃいたけど…そっちの『可愛い』ね。

人魚の『食べたくなるほど可愛い』という言葉は──文字通りの意味だ。
人間はあんまり知らないだろうけど。
人魚はもともと猟奇的な部分がある。
今は人間と親交してるし、そういう部分を抑えて生きてる人魚も多いけど。

一昔前なら、『我が子が可愛すぎて食べてしまう』とか『好きな人魚と一緒になりたくて食べる』なんてことはザラにあった。
食べてしまえば『それ』は誰のものにもならず、自分のものにしてしまえるから、なんていう理由だったりするらしい。

ジェイドが実際小エビちゃんを本当に食べたいと思ってんのかは知らねーけど。
少なくとも『自分のものにしたい』とは思っているのだろう。

「まー、逃げらんねぇよーにね」
「そんな不覚を取ったりはしませんよ」
ウフフ、と相変わらず気色悪い笑い方をするジェイド。
──お前って、肝心なとこで爪が甘いんだよなぁ──と思ったけど、めんどくせーから言うのはやめた。失敗したらおもしろそうだし。

ガシャン!
「うわぁ!」
突然食器が割れる音と小エビちゃんの悲鳴が聞こえた。
「おやおや、今度はプレートを落としたようですね」
お仕置きが必要ですねぇ、と楽しそうに笑いながら、ジェイドは小エビちゃんの元へと歩み寄る。

「なんだかんだ言ってぇ、小エビちゃんにはちょー甘いくせに」
めんどくさいジェイドに好かれた小エビちゃん。
ま、せいぜい頑張って。




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