第一章〜魔術師への第一歩〜
――最終試験日。
クレアは二次試験を無事突破し、翌日の最終試験に挑むこととなった。会場は独特の緊張感に包まれ、静まり返っていた。
最初の試験では100人を超える受験者がいたが、最終試験では10人程度まで絞られていた。残されたライバルたちは皆、賢く優秀に見えた。もっとも、それはクレア以外の受験者たちも同じように感じていたことだろう。
最終試験では、宮廷魔術師ヴァリス・フィリオンが直々に面接を行い、その場で魔法を一つ披露することになっていた。25歳での宮廷魔術師就任でさえ出世頭と言われる中、彼は20歳という異例の若さでその地位を得ている。
若き天才と謳われる彼は、受験者たちの何を見極めようとしているのだろうか?
「すごい。ヴァリス・フィリオンだ……」
受験者の誰かがそう呟くと、会場に入ってきた青年に一斉に注目が集まった。
(この人が、あの有名な魔術師様……)
魔法の基礎を知らないのに「ヴァリス様にお近づきになりたい」という理由だけで試験を受けたがる者がいる、と言われるほど、容姿端麗な青年だと噂で聞いたことがある。純粋に魔術師を目指すクレアも思わず、彼の美貌に目を奪われた。
長い紺色の髪が滑らかに揺れている。魔術師らしい面長の顔立ちは端正で、きりっとした眉がその整った輪郭を引き締めていた。
アイスブルーの瞳には冷静さと鋭さが宿り、まるで相手の心の奥底まで見通すかのようだった。
右手に握った、彼の腰ほどの長さはある杖が床を軽く叩くたびに、静寂の中に微かな響きが生まれる。
(……あれ?)
クレアはふと、彼が気取られないよう右足を庇うように歩いていることに気付いた。
魔術師は「魔杖」と呼ばれる、魔法を操る際に使用する杖を持っている。通常は魔法の制御や補助に使われるものだが、彼の杖の場合は通常以外の用途も持っているのかもしれない。
面接官の魔術師に目配せをした後、ヴァリスは受験者たちへ語りかけた。
「私がヴァリス・フィリオンである」
彼は低く威厳のある声で続ける。
「ここまで残ったということは、君たちはそれなりの実力があるのだろう。だがしかし、力があるだけでは宮廷魔術師は務まらない。私の弟子となるならば『その力を何のために使うのか』……ぜひ、見せてもらおう」
魔法を、何のために……。
クレアは頭の中でゆっくりと、ヴァリスの言葉を反芻した。
「――これより最終試験を開始する。番号を呼ばれた者は前へ」
クレアは二次試験を無事突破し、翌日の最終試験に挑むこととなった。会場は独特の緊張感に包まれ、静まり返っていた。
最初の試験では100人を超える受験者がいたが、最終試験では10人程度まで絞られていた。残されたライバルたちは皆、賢く優秀に見えた。もっとも、それはクレア以外の受験者たちも同じように感じていたことだろう。
最終試験では、宮廷魔術師ヴァリス・フィリオンが直々に面接を行い、その場で魔法を一つ披露することになっていた。25歳での宮廷魔術師就任でさえ出世頭と言われる中、彼は20歳という異例の若さでその地位を得ている。
若き天才と謳われる彼は、受験者たちの何を見極めようとしているのだろうか?
「すごい。ヴァリス・フィリオンだ……」
受験者の誰かがそう呟くと、会場に入ってきた青年に一斉に注目が集まった。
(この人が、あの有名な魔術師様……)
魔法の基礎を知らないのに「ヴァリス様にお近づきになりたい」という理由だけで試験を受けたがる者がいる、と言われるほど、容姿端麗な青年だと噂で聞いたことがある。純粋に魔術師を目指すクレアも思わず、彼の美貌に目を奪われた。
長い紺色の髪が滑らかに揺れている。魔術師らしい面長の顔立ちは端正で、きりっとした眉がその整った輪郭を引き締めていた。
アイスブルーの瞳には冷静さと鋭さが宿り、まるで相手の心の奥底まで見通すかのようだった。
右手に握った、彼の腰ほどの長さはある杖が床を軽く叩くたびに、静寂の中に微かな響きが生まれる。
(……あれ?)
クレアはふと、彼が気取られないよう右足を庇うように歩いていることに気付いた。
魔術師は「魔杖」と呼ばれる、魔法を操る際に使用する杖を持っている。通常は魔法の制御や補助に使われるものだが、彼の杖の場合は通常以外の用途も持っているのかもしれない。
面接官の魔術師に目配せをした後、ヴァリスは受験者たちへ語りかけた。
「私がヴァリス・フィリオンである」
彼は低く威厳のある声で続ける。
「ここまで残ったということは、君たちはそれなりの実力があるのだろう。だがしかし、力があるだけでは宮廷魔術師は務まらない。私の弟子となるならば『その力を何のために使うのか』……ぜひ、見せてもらおう」
魔法を、何のために……。
クレアは頭の中でゆっくりと、ヴァリスの言葉を反芻した。
「――これより最終試験を開始する。番号を呼ばれた者は前へ」
