第一章〜魔術師への第一歩〜
ある日のことだった。
孤児院でマリアという女の子が木から落ちてしまい、膝を擦りむいて怪我をした。
その知らせを聞いたヨゼフィーネは、歳ですっかり弱くなった足をよろめかせながら、孤児院のキッチンから飛び出し、見に行った。
泣いているマリアのそばに、別の女の子が励ましていた。隣で、懸命に友だちの背中を支えながら。
それだけなら『友だちを思いやる、優しい女の子がいた』という、心温まる小話で終わっていただろう。
が、少し違った。
その女の子はマリアの手を取り、祈るように両手で包み、小さく呟いた。
「お願い、治って……痛いの、どこかへ行って……!」
すると、柔らかい小さな光がマリアの膝を包み始めた。
慈悲なるあたたかな光。
過去に、魔術学校で教鞭を振るっていたヨゼフィーネは、その女の子が何をしたか、瞬時に理解した。
ーー治癒術。
光が散り散りに消え失せた時、マリアの痛々しかった膝は、子供らしい健康な肌に戻っていた。
涙の跡が残る顔で、マリアは驚きと喜びが入り混じった表情で言った。
「クレア、凄い!今なにしたの?」
その女の子――クレアは、笑顔で答えた。
「痛いのがとんでいって、マリアが笑顔になりますように、っていっぱいいっぱい祈ったの。マリア、元気になってよかった!」
後日、ヨゼフィーネ先生はクレアを呼び出した。
不安そうな表情のクレアを安心させてあげるため、まず先に一冊の本を手渡した。そして、しわだらけの手でクレアの頭を優しくなで、言い聞かせるように話してくれた。
「この本には、あなたが皆を笑顔にするための知識が詰まっているの。大切にしてくれると、嬉しいわ」
それは、いつも読んでいる童話本よりもやや厚く、なめらかな黒地の装丁がなされており、クレアはあっという間に心を奪われた。本をパラパラとめくるたびに、新しい紙の匂いが鼻をくすぐり、胸が高まる。本には、細かい文字のページや、幾何学的な模様、植物や鉱石などのイラストが書かれている。
……初等教育用の魔導書だった。
「ありがとうございます先生!わたし、みんなを笑顔にするために、いっぱいがんばります!」
クレアはあふれんばかりの笑みで答えた。
孤児院でマリアという女の子が木から落ちてしまい、膝を擦りむいて怪我をした。
その知らせを聞いたヨゼフィーネは、歳ですっかり弱くなった足をよろめかせながら、孤児院のキッチンから飛び出し、見に行った。
泣いているマリアのそばに、別の女の子が励ましていた。隣で、懸命に友だちの背中を支えながら。
それだけなら『友だちを思いやる、優しい女の子がいた』という、心温まる小話で終わっていただろう。
が、少し違った。
その女の子はマリアの手を取り、祈るように両手で包み、小さく呟いた。
「お願い、治って……痛いの、どこかへ行って……!」
すると、柔らかい小さな光がマリアの膝を包み始めた。
慈悲なるあたたかな光。
過去に、魔術学校で教鞭を振るっていたヨゼフィーネは、その女の子が何をしたか、瞬時に理解した。
ーー治癒術。
光が散り散りに消え失せた時、マリアの痛々しかった膝は、子供らしい健康な肌に戻っていた。
涙の跡が残る顔で、マリアは驚きと喜びが入り混じった表情で言った。
「クレア、凄い!今なにしたの?」
その女の子――クレアは、笑顔で答えた。
「痛いのがとんでいって、マリアが笑顔になりますように、っていっぱいいっぱい祈ったの。マリア、元気になってよかった!」
後日、ヨゼフィーネ先生はクレアを呼び出した。
不安そうな表情のクレアを安心させてあげるため、まず先に一冊の本を手渡した。そして、しわだらけの手でクレアの頭を優しくなで、言い聞かせるように話してくれた。
「この本には、あなたが皆を笑顔にするための知識が詰まっているの。大切にしてくれると、嬉しいわ」
それは、いつも読んでいる童話本よりもやや厚く、なめらかな黒地の装丁がなされており、クレアはあっという間に心を奪われた。本をパラパラとめくるたびに、新しい紙の匂いが鼻をくすぐり、胸が高まる。本には、細かい文字のページや、幾何学的な模様、植物や鉱石などのイラストが書かれている。
……初等教育用の魔導書だった。
「ありがとうございます先生!わたし、みんなを笑顔にするために、いっぱいがんばります!」
クレアはあふれんばかりの笑みで答えた。