第一章〜魔術師への第一歩〜
最初の試験については、魔術師を目指しているならば、実に簡単なものであった。
……クレアのように、酷いミスしたりしなければ、だが。
試験は城の庭にある、レンガが緻密に敷き詰められた広間で行われた。その近くには、当時の職人達が技術を結集して作られたという、誰がみても圧倒される、豪華絢爛な噴水、また、建国記念に作られた大きな古鐘が吊るされている。昔からよく祭典行事などで使われる場所である。
会場には実際に宮廷魔術師が数名おり、合否をその場で判断する。不合格と下された者は、即、退場となる。
最初の試験は、『なんでもいいので魔法を試験官に見せる』というシンプルなものだった。
が、魔法というのは「才無き者は一生かけても修得できず」と言われている。
元々の素質がないものは、一生をかけてどんなに努力しても魔法を使うことすら叶わない。つまり、ここで魔法が見せられない者は、ヴァリスの弟子はおろか、そもそも魔術師になることはできないのである。
実はこの試験で、面白半分で参加した者の多くがふるい落とされていた。
クレアは、魔法の才はあった。
あったが、とにかく緊張していた。
クレアは額から汗を流し、ぶるぶると体を震わせながら、自分を奮い立たせようとしていた。
ふと、魔術学校での失敗の記憶が蘇る。
ーー失敗ばかりだった学校生活。授業中何度も呪文を噛み、嘲笑されたこと。最後の授業で試験魔法を暴発させた時、先生の『君には無理だよ』という冷たい言葉が、鋭い刃のようにクレアの心に深く突き刺さった。
あの時は何も言い返せず、ただ目に涙を浮かべ、立ち尽くすしかなかった。
でも、あれからクレアは努力を重ねてきた。ヨゼフィーネ先生のくれた魔導書をボロボロになるまで何度も読み返し、それを支えにして、魔術師になる夢を諦めないように頑張ってきたのだ……。
クレアは震える指先を握りしめ、深く一度息を吸い込んだ。
そして、自分に言い聞かせるように念じた。
(私は、もう後戻りできない……!)
「ろろろ、68番、クレア!いきます!」
クレアは指先を強く念じ、魔法をとなえ。
本当は、明かりを灯す魔法を見せたかったのだが、緊張から舌がよく回らなかった。
……なんと、誤って鉄砲水を放つ魔法を発動してしまった。
鉄砲水はあらぬ方向に暴発し、なんと、例の噴水と古鐘に当たってしまった。
噴水は外枠の一部が崩れ、水が外に漏れ出し、床のレンガを濡らす。水たまりが生まれ、大きくなってゆく。
鐘は、今まで聞いたことのない大きな音を鳴らし大きく振れたあと、支える金具が壊れ、地面に落下。かつて、その古鐘は、歴代の国王へ歴史の重みと未来への祝福を重厚なる響きで伝えたものだが、無情にも地面に叩きつけられ、まるで断末魔のような轟音が響き、会場に静寂をもたらしたのだった。
人に当たらなかったのは、不幸中の幸いだった。
会場全体は騒然となった。
離れた場所にいた受験者達が驚いて集まってきたり、厳しい顔で粛々と試験判定を行っていた魔術師も、さすがに呆気にとられ、目を丸くして互いの顔を見合わせていた。
まとめ役と思しき壮年の魔術師も、他の試験官と違わず、短い時間の中では事態が飲み込めなかったようだが、すぐに冷静さを取り戻し、場を落ち着かせようと手を上げた。
クレアは、魔法を唱えた後の姿勢のまま石のように固まる。動けないのに、膝や指先の震えは止まらなかった。
目の前が、世界が、霧がかるように白くなっていく。
そして、ああ、全てが終わった、と思った。
……クレアのように、酷いミスしたりしなければ、だが。
試験は城の庭にある、レンガが緻密に敷き詰められた広間で行われた。その近くには、当時の職人達が技術を結集して作られたという、誰がみても圧倒される、豪華絢爛な噴水、また、建国記念に作られた大きな古鐘が吊るされている。昔からよく祭典行事などで使われる場所である。
会場には実際に宮廷魔術師が数名おり、合否をその場で判断する。不合格と下された者は、即、退場となる。
最初の試験は、『なんでもいいので魔法を試験官に見せる』というシンプルなものだった。
が、魔法というのは「才無き者は一生かけても修得できず」と言われている。
元々の素質がないものは、一生をかけてどんなに努力しても魔法を使うことすら叶わない。つまり、ここで魔法が見せられない者は、ヴァリスの弟子はおろか、そもそも魔術師になることはできないのである。
実はこの試験で、面白半分で参加した者の多くがふるい落とされていた。
クレアは、魔法の才はあった。
あったが、とにかく緊張していた。
クレアは額から汗を流し、ぶるぶると体を震わせながら、自分を奮い立たせようとしていた。
ふと、魔術学校での失敗の記憶が蘇る。
ーー失敗ばかりだった学校生活。授業中何度も呪文を噛み、嘲笑されたこと。最後の授業で試験魔法を暴発させた時、先生の『君には無理だよ』という冷たい言葉が、鋭い刃のようにクレアの心に深く突き刺さった。
あの時は何も言い返せず、ただ目に涙を浮かべ、立ち尽くすしかなかった。
でも、あれからクレアは努力を重ねてきた。ヨゼフィーネ先生のくれた魔導書をボロボロになるまで何度も読み返し、それを支えにして、魔術師になる夢を諦めないように頑張ってきたのだ……。
クレアは震える指先を握りしめ、深く一度息を吸い込んだ。
そして、自分に言い聞かせるように念じた。
(私は、もう後戻りできない……!)
「ろろろ、68番、クレア!いきます!」
クレアは指先を強く念じ、魔法をとなえ。
本当は、明かりを灯す魔法を見せたかったのだが、緊張から舌がよく回らなかった。
……なんと、誤って鉄砲水を放つ魔法を発動してしまった。
鉄砲水はあらぬ方向に暴発し、なんと、例の噴水と古鐘に当たってしまった。
噴水は外枠の一部が崩れ、水が外に漏れ出し、床のレンガを濡らす。水たまりが生まれ、大きくなってゆく。
鐘は、今まで聞いたことのない大きな音を鳴らし大きく振れたあと、支える金具が壊れ、地面に落下。かつて、その古鐘は、歴代の国王へ歴史の重みと未来への祝福を重厚なる響きで伝えたものだが、無情にも地面に叩きつけられ、まるで断末魔のような轟音が響き、会場に静寂をもたらしたのだった。
人に当たらなかったのは、不幸中の幸いだった。
会場全体は騒然となった。
離れた場所にいた受験者達が驚いて集まってきたり、厳しい顔で粛々と試験判定を行っていた魔術師も、さすがに呆気にとられ、目を丸くして互いの顔を見合わせていた。
まとめ役と思しき壮年の魔術師も、他の試験官と違わず、短い時間の中では事態が飲み込めなかったようだが、すぐに冷静さを取り戻し、場を落ち着かせようと手を上げた。
クレアは、魔法を唱えた後の姿勢のまま石のように固まる。動けないのに、膝や指先の震えは止まらなかった。
目の前が、世界が、霧がかるように白くなっていく。
そして、ああ、全てが終わった、と思った。