第一章〜魔術師への第一歩〜
魔法の実技試験。
クレアは、面接で披露する魔法を事前に決めていた。
ーー精霊召喚。
愛読書の魔導書の後ろの方に書かれている、やや難易度の高い術である。
精霊とは、人の目には見えないが、身近に存在する特別な存在。
魔術師が術を施すことで、その姿を一時的に具現化できる。
召喚された精霊は、魔術師の魔力と引き換えに一時的に力を貸してくれる。
また、召喚できる精霊にも種類がある。
基礎の基礎である四大元素の地・水・火・風……。
そしてその中でも、魔術師の術の難易度によって上級、中級、下級が分かれていく。
クレアはその中でも比較的召喚しやすい「下級の風の精霊」を召喚しようと考えていた。
(過去に召喚術は何度かやって成功したことがあるし、今回もできるはず。ここで、全力でアピールしなくちゃ!)
クレアは魔導書に従って、足元に大きな魔法陣を黙々と描き始めた。
ヴァリスはその様子を眺めていた。書かれた内容で、彼女がどんな魔法を使うのかを予測しているようだった。
「ーー大地に息吹をもたらし、草を揺らし、空を駆ける風の精霊よ。我が声に応え、姿を顕せ」
クレアが詠唱すると魔法陣が光りだす。風が魔力をかき混ぜるように、ゆっくりと魔法陣の中心へと流れていく。
魔法陣がさらに強く輝く。と同時に、会場に突然無音が訪れ、周囲にヒヤリした空気に包まれた。
綿毛のような光の塊が、クレアの目の前に現れる。
その塊には、蜻蛉のように透き通る薄い羽と、よく見ると人間と同じように瞳が2つある。だが、その瞳の奥には、神秘さと不気味さが入り混じった宇宙的な深淵がある。
また、どこか不規律な羽音が、聴くものを不安にさせるようだった。
「スゥア、ヴェル……カリリリ…ッ」
「え?」
風を切るような、不思議な言語で話しかけてきた。
だが、分からない。通常、術を通じて、精霊の話す言葉がある程度翻訳され、分かるはずなのだが……クレアには分からなかった。
魔術師が精霊に魔力を与えているが、意思疎通ができない状態。
クレアの脳裏に一つの文章が浮ぶ。
この状況は、魔術書でも書いてあったのでよく覚えていた。
『精霊と意思疎通ができないと、魔力のみを与えられた精霊は混乱し、暴走する危険がある』
会場は肌寒いほどの気温に包まれているはずなのに、クレアの全身から汗が噴き出した。
今すぐ精霊を抑えなくてはならないのに、頭の中は酷い耳鳴りが鳴り響いてクレアの思考を邪魔する。
クレアの焦りと緊張に呼応するように、風の精霊が震えだした。
「ファアァアア……ラリィ、ウヴェ、ウヴェ、ウヴェ!!」
「なんで?そんな……」
精霊に静かに向かっていた乾いた空気が逆方向に流れ、それは徐々に強くなっていく。
会場にいる人々は不穏な気配に飲まれたまま、恐怖で声も出せず、ただその場に立ち尽くしていた。
ーー暴走する。
クレアはとっさに腕で覆い、目を閉じた。
と、その時、背後で別の風の流れを感じた。
「術者は、自ら召喚した精霊から決して目を逸らしてはならない」
男性の声が穏やかに語り掛ける。
ヴァリスだった。
クレアは、面接で披露する魔法を事前に決めていた。
ーー精霊召喚。
愛読書の魔導書の後ろの方に書かれている、やや難易度の高い術である。
精霊とは、人の目には見えないが、身近に存在する特別な存在。
魔術師が術を施すことで、その姿を一時的に具現化できる。
召喚された精霊は、魔術師の魔力と引き換えに一時的に力を貸してくれる。
また、召喚できる精霊にも種類がある。
基礎の基礎である四大元素の地・水・火・風……。
そしてその中でも、魔術師の術の難易度によって上級、中級、下級が分かれていく。
クレアはその中でも比較的召喚しやすい「下級の風の精霊」を召喚しようと考えていた。
(過去に召喚術は何度かやって成功したことがあるし、今回もできるはず。ここで、全力でアピールしなくちゃ!)
クレアは魔導書に従って、足元に大きな魔法陣を黙々と描き始めた。
ヴァリスはその様子を眺めていた。書かれた内容で、彼女がどんな魔法を使うのかを予測しているようだった。
「ーー大地に息吹をもたらし、草を揺らし、空を駆ける風の精霊よ。我が声に応え、姿を顕せ」
クレアが詠唱すると魔法陣が光りだす。風が魔力をかき混ぜるように、ゆっくりと魔法陣の中心へと流れていく。
魔法陣がさらに強く輝く。と同時に、会場に突然無音が訪れ、周囲にヒヤリした空気に包まれた。
綿毛のような光の塊が、クレアの目の前に現れる。
その塊には、蜻蛉のように透き通る薄い羽と、よく見ると人間と同じように瞳が2つある。だが、その瞳の奥には、神秘さと不気味さが入り混じった宇宙的な深淵がある。
また、どこか不規律な羽音が、聴くものを不安にさせるようだった。
「スゥア、ヴェル……カリリリ…ッ」
「え?」
風を切るような、不思議な言語で話しかけてきた。
だが、分からない。通常、術を通じて、精霊の話す言葉がある程度翻訳され、分かるはずなのだが……クレアには分からなかった。
魔術師が精霊に魔力を与えているが、意思疎通ができない状態。
クレアの脳裏に一つの文章が浮ぶ。
この状況は、魔術書でも書いてあったのでよく覚えていた。
『精霊と意思疎通ができないと、魔力のみを与えられた精霊は混乱し、暴走する危険がある』
会場は肌寒いほどの気温に包まれているはずなのに、クレアの全身から汗が噴き出した。
今すぐ精霊を抑えなくてはならないのに、頭の中は酷い耳鳴りが鳴り響いてクレアの思考を邪魔する。
クレアの焦りと緊張に呼応するように、風の精霊が震えだした。
「ファアァアア……ラリィ、ウヴェ、ウヴェ、ウヴェ!!」
「なんで?そんな……」
精霊に静かに向かっていた乾いた空気が逆方向に流れ、それは徐々に強くなっていく。
会場にいる人々は不穏な気配に飲まれたまま、恐怖で声も出せず、ただその場に立ち尽くしていた。
ーー暴走する。
クレアはとっさに腕で覆い、目を閉じた。
と、その時、背後で別の風の流れを感じた。
「術者は、自ら召喚した精霊から決して目を逸らしてはならない」
男性の声が穏やかに語り掛ける。
ヴァリスだった。
