第一章〜魔術師への第一歩〜

あっという間にクレアの番がきた。
緊張で跳ね上がりそうな心臓を抑えながら前に進む。
ヴァリスは手元の資料に一瞬だけ視線を落とし、またクレアに戻す。
「君に問おう。君はなぜ魔術師になりたいと思った?」

クレアは緊張で声が震えないように、できるだけ抑えて答えた。
「誰かのために魔法を使って、役に立ちたいからです」

ヴァリスが静かに頷く。
「素晴らしい回答だ。だがしかし……誰もがそう考えるものだ。『誰かの役に立ちたい』。その裏には本心が隠れている。名声を得るため、己の自尊心を満たすため」

彼は揺るぎない口調でさらに問い詰めていく。
「魔術を学んで、君はそれをどう役立てる?具体的にどうやって救うつもりだ?」

ーーその力を何のために使うのか?
面接前にヴァリスが放った言葉であり、そしていま、クレアに問いている。

クレアは幼い時、孤児院の恩師であるヨゼフィーネに語った言葉を思い出していた。
『ありがとうございます先生!わたし、みんなを笑顔にするために、いっぱいがんばります!』

(……みんなを笑顔にするため。そうだ、これが私の原点)

クレアは先ほどまで青白かった顔を上げる。彼女の瞳は決意で力強く光り、みなぎっていく。

クレアは震える手を自分の胸元に添える。
小さく息を吸うと、何度も読み返してボロボロになった、いつもの『あの本』を取り出した。
魔術学校で失敗し、周りに苦笑され、心が折れそうになった時、クレアを支えてくれた相棒の一つ……。

「私はまだ、その……十分に強くないです。でも、そのためにたくさんの努力をしてきました!この魔導書を何度も読み返してきました。薬学を学んで傷を癒したり、困っている人のためにもっともっと、できることを増やしたいです。未熟な部分や足りない部分は、さらに努力して補います!」

先ほどまで緊張で引きつっていた唇から、自然と言葉が出た。途切れず、堂々と主張できたことにクレア自身も少し驚く。緊張とは違う、熱い鼓動が全身をめぐっていた。

「ふむ……」
ヴァリスはアイスブルーの目を細め、眼前のクレアを見つめた。
まるで、その言葉の真偽すら魔力で見抜こうとするかのように。
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