とんがりボウシ

 浮上する感覚に身を委ねるように目を覚ます。利き手の方に目をやった後、その手を頭に乗せる。ボウシと杖が消えていることを確認し安堵のため息が出た。
 喉の渇きを覚え、水を飲もうとベッドから出ると視界に藍色の球体が入り込む。ラピスラズリ、瑠璃とも言われるその鉱石はもう自分では見慣れている物だ。



 初めて彼女を見たとき、その墨色の瞳から目が離せなかった。緊張しているのだろう、たどたどしく自己紹介をしている声に耳を傾けながら自分の胸の鼓動が早くなっていくのが分かる。
 その時、俺は一目惚れをしたのだと自覚したのだ。

 そこから彼女との仲を深めるために行動に移した。彼女が魔法語が苦手だと友達にぼやいていたのを耳にしたら自分も分からないところがあるから勉強しようと誘ったり、暇そうにしているのを目にしたら一緒に遊びに行こうと声をかけ連れ出したりととにかく彼女との時間を増やした。
 その甲斐があったのだろう。一番とまではいかないが結構彼女と仲がいいクラスメイト兼友達というポジションを獲得できた。順調だ。これで一番の友達になってしまっていたら逆にそこから抜け出すのが大変になる。
 けれどそのままの位置に居座るつもりは毛頭ない。だから次の行動に入ることにした。

 彼女が喜びそうなプレゼントするために彼女と一番仲のいいクラスメイトに声をかけた。が、彼女の親友ははっきり言って手強い。何度頼み込んでもなかなか彼女の好きな物を教えてもらえず、やっと交渉にありつけたのはその子の好きな子が俺と仲がいいからちょっと恋愛事情を聞いてこいと言う。
 この交換条件に乗り、散々彼女とのことについていじられた末、なんとか俺は彼女に渡すリーフ型のペンダントを買えた。
 彼女は植物モチーフの小物を持ってることが多いから似合いそうだ。喜んでくれるだろうか。彼女を笑顔を想像し、思わずにやけてしまう。
 いけない、まだ告白すらしていない。これを渡すのはその時だ。

 そして何よりも大事なのは相手の気持ちだ。いくらこちらが好きでも相手がそうじゃなかったら断られてしまう。だからその思いの方にもアプローチをかけることにした。
 夢枕のおまじない。ラピスラズリを使い、5日間かけ続けることによりまじないの相手がこちらを意識するようになる効果を持つおまじないだ。
 それは途中で止めてしまったり失敗したりすると逆に相手に嫌われてしまうというリスクはあるものの、成功すれば距離を縮められるかもしれないというのでそれを実行してみることにした。

 最初の1回目は効果があったのかよく分からなかった。むしろ、遊びに誘ってもいい返事をもらえなかったりと彼女がなんとなく俺を避けているだろうという風に感じた。しかし、5日間かけ終え2回目の時に変化が起きた。彼女が俺の方を時々伺うように見たり、俺と目を合わせると慌てたように逸らしたりするなどだ。これは俺のことを意識しているのだろうか。
 そう不安になりこっそり人目がないところで隠れ、彼女にテルミーラブの魔法をかけた。

 ……彼女の口から俺の名前が出た。その声が俺の鼓膜を揺らしたとき叫びだしそうになった。体中の血液が沸騰するくらい熱くなって喜びが全身を駆け巡る。ばれなかったのは奇跡だろう。
 だけど万全を期すため3回目の夢枕のおまじないをかけている。それも明日には終わる。



 水で喉を潤しながら今までのアプローチを振り返る。
 俺は明後日、彼女に告白する。
 まさか俺が夢枕のおまじないを3回もかけてダメ押しとばかりにプレゼントまで用意するとは思わなかった。自分でも驚くほど外堀を埋めているという自覚がある。恋は人を勇敢にもするし臆病にもするとはよく言った物だ。

「………………」

 ここまで恋人になるために頑張って来たが、絶対に上手くいくとは限らない。それが不安だ。
 どうか俺の恋心を受け取ってほしい。俺の恋人になってほしい。
 そんな自分でも呆れるような想いをため息と共にはきながら、ラピスラズリを撫で白む空を窓から眺めた。
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