とんがりボウシ
目を開けると一面の暗闇が見える。2度3度と瞬きをすると少し離れた場所に見覚えのある彼が立っていた。
ああ、まただ。また私は懲りずにこんな夢を見ている。少し前だったらこの夢を待ち遠しく思えたのだろうが、今は違う。むしろ。
彼が何かを言おうと口を開いた。けれどその声は聞こえないまま夜の帳が下りるように意識が黒に包まれた。
水底から浮き上がるような心地がし、先ほどと同じように目を開ける。見慣れた天井が視界に入り現実に戻ってきたと自覚する。
いつもの出来事に嬉しいと思うのと同時に彼との夢が終わってしまったことに寂しさを覚え、そんな自分に嫌気が差す。
私が彼に恋をしたと気づいてしまったのは2週間前。けれど自覚した瞬間に終わってしまった。
自分のお店に行く途中、彼が歩いているのを見え、声をかけようとした。
……クラスメイトが彼の隣にいた。それも私と一番仲がいい、とてもかわいい女の子。
なにか彼が面白いことを言ったのだろう、彼女が笑いながら指でつつき彼も笑う。お似合いだった。
どうしてあの時あそこに行ってしまったのだろう。どうしてあの時自分の気持ちに気づいてしまったのだろう。そんな考えが寝るまで頭の中をぐるぐると駆け回りとても気持ち悪かった。
その夜、夢を見た。暗闇の中、彼が私を見て笑いかける夢だ。目を覚ましすぐ後悔した。私は彼を諦めることができないのではないかと。
嫌だ。彼が他の子を好きになるのが。
だけど、あの子は私の親友だ。幸せになってほしい。彼女が好きな子と一緒になるのを応援したい。
相反する想いが湧き上がってきてなんとかしたかった。
「店長、今日も恋ケーキ作るのかニャー?」
「うん。……最近依頼が多くてね」
お菓子作りは好きだ。甘い香りに甘い味、女の子の夢や希望を詰め込んだようなかわいい見た目。それが私の手によって形になっていく様子が面白い。
それを夢の想いが膨れ上がるのを解消するのに使ってるなんて私も結構限界なんだろう。手を動かし生地を混ぜて、焼いて、ハート型に型を抜き、予想通り幸せを感じさせる桃色系統のデコレーションになっていくのをどこか他人事として見てる自分がいる。
綺麗だなぁ。
もし依頼として渡すのだったら、相手が喜んでくれるだろうと思うくらいにそれはキラキラしていた。この結ばれるためのおまじないがかけられるケーキを作る人が、こんなに泥のような澱んだ気持ちにまみれているとは知るよしもないほどに。
言い慣れた呪文を唱え魔法をケーキに込めた後、それを持って店を出る。ここに置いていては駄目。だってこれはあんまり人に見せたくないから。
寮の部屋につき冷蔵庫を開ける。私が今持っているケーキが何個もひしめき合っていた。それらに眉を寄せ、今日作ったケーキを押し込み蓋をする。
お願いだから見せないで。
夕食や寝る身支度もそこそこにベッドに入り布団を頭から被る。渡されることがないだろうケーキ達を思い出し、なぜか目が熱くなり涙がシーツに落ちた。息を吸うと私の鼻をすする音が聞こえ、またそれで涙が溢れる。
あのケーキ達は私の気持ちだ。伝えることができない恋心を具現化し、受け取ってくれることを今か今かと待ち望んでいる気持ちなんだ。
この想いを打ち明けることができないなら、せめて彼の夢をもう見ないようにしたい。でないと、抑えていた気持ちが溢れ出てしまう。彼に、伝えてしまいそうになる。
段々と濃くなる眠気に薄い絶望を感じながら、微かに甘い砂糖菓子の香りが鼻をくすぐった。
ああ、まただ。また私は懲りずにこんな夢を見ている。少し前だったらこの夢を待ち遠しく思えたのだろうが、今は違う。むしろ。
彼が何かを言おうと口を開いた。けれどその声は聞こえないまま夜の帳が下りるように意識が黒に包まれた。
水底から浮き上がるような心地がし、先ほどと同じように目を開ける。見慣れた天井が視界に入り現実に戻ってきたと自覚する。
いつもの出来事に嬉しいと思うのと同時に彼との夢が終わってしまったことに寂しさを覚え、そんな自分に嫌気が差す。
私が彼に恋をしたと気づいてしまったのは2週間前。けれど自覚した瞬間に終わってしまった。
自分のお店に行く途中、彼が歩いているのを見え、声をかけようとした。
……クラスメイトが彼の隣にいた。それも私と一番仲がいい、とてもかわいい女の子。
なにか彼が面白いことを言ったのだろう、彼女が笑いながら指でつつき彼も笑う。お似合いだった。
どうしてあの時あそこに行ってしまったのだろう。どうしてあの時自分の気持ちに気づいてしまったのだろう。そんな考えが寝るまで頭の中をぐるぐると駆け回りとても気持ち悪かった。
その夜、夢を見た。暗闇の中、彼が私を見て笑いかける夢だ。目を覚ましすぐ後悔した。私は彼を諦めることができないのではないかと。
嫌だ。彼が他の子を好きになるのが。
だけど、あの子は私の親友だ。幸せになってほしい。彼女が好きな子と一緒になるのを応援したい。
相反する想いが湧き上がってきてなんとかしたかった。
「店長、今日も恋ケーキ作るのかニャー?」
「うん。……最近依頼が多くてね」
お菓子作りは好きだ。甘い香りに甘い味、女の子の夢や希望を詰め込んだようなかわいい見た目。それが私の手によって形になっていく様子が面白い。
それを夢の想いが膨れ上がるのを解消するのに使ってるなんて私も結構限界なんだろう。手を動かし生地を混ぜて、焼いて、ハート型に型を抜き、予想通り幸せを感じさせる桃色系統のデコレーションになっていくのをどこか他人事として見てる自分がいる。
綺麗だなぁ。
もし依頼として渡すのだったら、相手が喜んでくれるだろうと思うくらいにそれはキラキラしていた。この結ばれるためのおまじないがかけられるケーキを作る人が、こんなに泥のような澱んだ気持ちにまみれているとは知るよしもないほどに。
言い慣れた呪文を唱え魔法をケーキに込めた後、それを持って店を出る。ここに置いていては駄目。だってこれはあんまり人に見せたくないから。
寮の部屋につき冷蔵庫を開ける。私が今持っているケーキが何個もひしめき合っていた。それらに眉を寄せ、今日作ったケーキを押し込み蓋をする。
お願いだから見せないで。
夕食や寝る身支度もそこそこにベッドに入り布団を頭から被る。渡されることがないだろうケーキ達を思い出し、なぜか目が熱くなり涙がシーツに落ちた。息を吸うと私の鼻をすする音が聞こえ、またそれで涙が溢れる。
あのケーキ達は私の気持ちだ。伝えることができない恋心を具現化し、受け取ってくれることを今か今かと待ち望んでいる気持ちなんだ。
この想いを打ち明けることができないなら、せめて彼の夢をもう見ないようにしたい。でないと、抑えていた気持ちが溢れ出てしまう。彼に、伝えてしまいそうになる。
段々と濃くなる眠気に薄い絶望を感じながら、微かに甘い砂糖菓子の香りが鼻をくすぐった。