拍手SS

「おーい、イノリー!」

 澄み渡る青空に、明るい声が突きぬけた。
 驚いて振り返ったら、ちっちゃな可愛い影。手をブンブン振って、近づいてくる。

「トキちゃん!」
「イノリ!」

 トキちゃんは風みたいに近づいて、パシンと俺の背を叩く。

「あいたっ」
「ようよう! 今帰りか?」

 にっかりと大きな笑顔で聞かれて、ドキドキする。

「うん。生徒会、はやく終わったからさぁ。トキちゃん迎えに行こうと思ってー」
「一緒! 俺んとこも、今日はやく終わったんだわ」

 お前のとこ行こうと思って、ってトキちゃんは言う。えー、一緒のこと思ってくれてたんじゃん。まじときめくんですが。

「じゃあさ、一緒に帰ろー?」

 ぎゅって手を握ったら、小さい手が強い力で握り返してくれた。

「だな!」

 並んで歩き出す。トキちゃんは、頭の上で手を組んで、元気に足を振っていた。

「いやー、いい天気だなあ」
「そーだねぇ」

 じりじりって、太陽の光がアスファルトを焦がす。マジで、うだる、ってこんな感じ。
でも、トキちゃんが嬉しそうだから、俺も嬉しい。

「なあ、イノリ。お前んとこって、進路調査表書いたか?」
「んー?」

 トキちゃんが、明るい声で言う。その両手に持ったペットボトルが、きらきら光ってて、虹みたい。
 てか、進路調査って。

「紙は、貰ったかもー? トキちゃんは書いた?」

 首を傾げていると、トキちゃんの目が俺を見あげた。ばちって目が合って、ドキッとする。

「いんや、まだだぞ。まだ中二だし、高校っつわれてもわかんねーしなあ」
「だよねぇ。俺も、なんも考えてないよー」

 学校とか、トキちゃんと一緒なら、なんでもいいし。

――母さんは、そろそろまじで学園行けってうるせーんだけどぉ。

 トキちゃんと離れるとか、ぜってぇナシだしさぁ?
 てか、俺の人生なんだもんなぁ。好きにさせろし、て思うじゃん。

「んだな! イノリが決まってたらそこにすっかと思ったんだけどよ。って、安直か! なはは」

 白い歯を見せて、トキちゃんは笑う。トキちゃんの、こーゆーとこってさあ。

――天然なんだよねえ。マジさぁ、のぼせちゃいそうなんだけどぉ……

 当たり前に、俺を人生に出演させてくれんの。超、ときめくし。
 パタパタって、熱い頬に風をあおってたら、トキちゃんは不思議そうにしてる。

「どした? イノリ」
「んー、暑くて?」

 誤魔化したら、トキちゃんは「はっ!」て顔した。

「ああ! お前、暑いとこ弱いもんなあ。ほら、水飲んどけっ」
「わーい、ありがとー」

 差し出されたペットボトルの水を、ひとくち呷る。日差しでぬくまって、ほんのちょっと温い。でも、きらきらした水は、甘くて美味しく感じた。

「トキちゃん、あんがとねー」

 ちょっとドキドキしながら、お水を返す。

「いいってことよ……ん?! なんか冷たくて美味え!」

 笑顔のまま、ひとくち飲んだトキちゃんが、目をまん丸にしてる。
 可愛い。

「ふふ。不思議だねぇ」

――ちょっとだけ、秘密。

 トキちゃんに返すとき、こっそり魔法で冷やしたんだ。トキちゃん、冷たい飲み物好きだから。
 ほんとは、俺は見習いだし。母さんにも、あんま魔法使うなって言われてるけどー。
 ま。これくらいなら、いいっしょ。

「イノリ、お前も飲んでみ!」

 目をきらきらさせて、トキちゃんは言う。いつも、嬉しいこととか。俺に分けてくれんだよね。
 そーゆーところ、すげぇ好き。

「あんがとね、トキちゃん」

 俺が笑うと、ちっちゃい顔いっぱいで笑ってくれる。
 かわいいな。
 嬉しいな、って思う。
 ゲンキンだけど、魔法も悪くねぇかなって思えんの。
 トキちゃんが笑ってくれるだけで、俺はなんか、全部いいやぁってなるんだ。
 進路のこととかさ。
 魔法使いとか、なんかだりぃし。学園とかせっつかれても「は?」だしー。
 未来のことなんて、わかんねーけど。

 俺はトキちゃんと、ずっといたいな。

 そんなふうに思った、中二の夏。

『祈の中二の夏』

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