JOJO


珍しい男と組まされた。
文句の一つでも言ってやろうと思ったが、リーダーの命令ならば仕方ない。
少し先を歩く男の背中はピシッと伸びていて、猫背気味な自分とは対照的だ。
本来なら、スタンドの相性は最悪だ。
だから、組まされて早々に男はスタンドを使わないと宣言していた。
こちらは有利であったから、いつも通りスタンドは使うつもりでいる。

「スタンドなんざ使わなくとも、人間っつーのは殺せる」
「そりゃあ知ってるぜ」
「ま、暗殺向きだから使った方が楽に事が運ぶってことだ。元々は生身でやってきてんだ。相性云々なんてのは言い訳もいいとこだぜ」
「そうだろうなァ」

だから、文句も言わなかったのだ。
男のスタンド能力を知っているし、比較的えげつない部類のものであり、それでこの男が負けることも無いだろうと思っていた。
それぞれが好き勝手に振る舞っても、きっと問題なく事は終わるだろう。

愛車のエンジンをかけ、助手席でふんぞり返る男をチラと見て、この男を兄貴と呼んで慕っている新入りを思った。
どこに尊敬する点を見出だしたのだろうか。
新入りよりは長い付き合いではあるが、スタンドの相性上仕事で組むことは少ないし、年齢も離れているし、身近には感じにくい。
何より、いつも気難しそうな顔をしている。
チーム内でも取っつきにくい部類の男だと思っているのだが。
年長メンバーで酒を飲んでる時は、たまに普段の仏頂面を崩して笑っている。
小言も多くて五月蝿いが、間違っていることは無い。
面倒見はいいのだろうか。
あまり世話を焼かれないから分からない。

「ボサッとしてんなよ。もう着くぞ」
「分かってるよッ」
「ハン、相変わらず威勢のいい奴だよ。運転に集中しとけ、仕事前に事故られちゃあ元も子もねぇ」

考え込んでいたこともあり、強くは反抗できなかった。
周りをよく見ている男だ。
直情径行な割に、意外と冷静な判断をする。

目的の建物から少し離れた路肩に愛車を停め、広いとは言えない家屋を目指す。
密談の場所らしい。
噂では、組織へ手出しをする準備がなされている。
大方、巨万の富を生み出してきた麻薬ルートの乗っ取りだと推測される。
自分たちと同じ存在だ。
同じ存在を、ほんの少し優れた自分たちが排除するのか。
警告なのだ。
これは、定期的に示されるボスからの警告だ。
首輪がつけられているのだと自覚させる為に。

「行くぞ」
「オレが先に行くッ」
「そうかい、好きにしな」

民家と変わらない扉を開け、スタンドを発現させる。
不愉快な現実に苛立ったせいか、スタンドの操作が荒っぽくなった。
急激に周囲が凍りついていき、室内の温度が下がっていく。
ガタガタと異変に気づいた標的たちの物音が聞こえた。
伸びをして左右に身体を曲げ、全身をほぐす。
身を低くし、音のした部屋を目指して、足元だけホワイト・アルバムを纏って廊下を駆ける。
助走をつけて、異様に丈夫そうな扉を蹴破った。
異変を感じているにも関わらず、凍りついて銃を構えることもできない男たちの無様な姿を鼻で嗤う。
構えようとして取り落としたであろう拳銃を拾って、そのまま男たちにぶちこんだ。
銃声と同時に血飛沫が飛び、氷をまだらに赤く染めた。
室内には五人。
既に全員息絶えている。

「おいおい、口割らせる手段がねぇだろうが」

優雅に煙草を咥えながら、ゆったりとした歩調でプロシュートが合流した。
死体に煙を吹きかけ、のんびりと室内を見渡している。
密談の残骸と思われる紙を手に取り、そのまま煙草の火で燃やし尽くした。

「ケッ、どうせ粗方のことは探り入ってんだろォ」
「そりゃあ今回はな。スタンドも持ってねぇ奴らに何されようと大したことねぇが、根こそぎ排除しといた方が後の面倒がなくて良い。オレらの知らねぇ何かを知ってる可能性もある」
「…次はそうする」
「……あと数人合流するぞ。構えろ」

窓の外を窺っていたプロシュートが、声を低めて牽制した。
何も知らずに合流してくる気配を感じ取り、部屋の中央で迎え撃つように立つ。
建物内に満ちた冷気や蹴破られた扉を見れば、どんな馬鹿でも何があったかは分かるだろう。
余裕を持った足取りから、慌てたように駆け出す足音が聞こえる。
視界に入った男たちが何か言っていたが、乱れた発砲音がそれを掻き消した。
こちらに向かって放たれた弾丸は、何も無い周囲をキラキラと反射して、放った男たちの方へと光速で返っていく。
撃たれたところで、貫通するわけでもないのだが。

「てめーのそれは便利だな」
「そりゃどーも。えげつねぇもん使う奴に言われても嬉しかねぇよ」

ジェントリー・ウィープスによって跳ね返った弾は、男たちを貫通した。
何も分からないまま死んでいく姿を無様に思いながら、これで終わりだろうかと視線を周囲に逸らした。
その一瞬、背後に立っていたプロシュートが銃を構えるのが見えた。
三発放たれた弾丸は、自身をすり抜けて転がっていた死体にぶちこまれた。
死体の手から、拳銃が離れて床に転がる。

「始末を終えてねぇのに気を抜くんじゃあねぇ」
「…すまねぇ」

新しい煙草を咥え直し、ゆっくりと煙を吐き出す。
嫌みったらしいほど様になる優雅な暗殺者は、思い出したように小さく笑った。

「詰めが甘ぇな。おめーもペッシと同じだ」
「ケッ、あんなマンモーニじゃあねぇ」
「オレからすりゃ、どっちも同じだよ。ビビる奴も気を抜く奴も、何もできずにおっ死ぬだけだ」
「…厳しい教育係だぜ、まったくよォ」
「そうか?リゾットほど厳しかねぇと思うがな」

厳しいと判断しているプロシュートが、さらに厳しいと評するのなら相当厳しいのだろうと思う。
間違っても教育し直されるようなヘマはしたくない。

増援の気配が無いことを確認し、血腥い建物を後にした。
近くに停めていた愛車に乗り込み、エンジンをかける。
足元をチラと見て、ズボンの裾に返り血が付いていることに気づいた。
飲み物でも買って帰ろうかと思ったが、万が一にでも一般人に血を見られて騒がれるのは面倒だ。
ため息混じりに車を走らせると、プロシュートが店に寄れとほざいた。
面倒だと思いはしたが、一人で買い物を済ませるというなら構わない。荷物持ちはゴメンだ。
愛車から降りて店に入るまでの数mの間に女どもに群がられている男の背中を苦々しく眺めた。
その男は、今しがた人間を殺してきたのだと、いっそ大声で教えてやりたいくらいだ。
今回は一、二人だったが、そんなものは些末なほどの死体の山を築いてきた。
リーダーであるリゾットは、暗殺にたった一度のミスも無いというのは有名な事実であったが、あの男も近い実力を持っている。
まぁ、暗殺チームならば当たり前ではあるのだが。
スタンド云々ではなく、天性のセンスなのだろう。

「早く車を出せ。もう用はねぇ」
「人使いの荒いジジイだぜ」
「おいおい、ギアッチョよ~~直は早いのは知ってるよな?おめーが氷纏うのとどっちが早いか比べてみるか?」
「そりゃ面白れーなァ!!やってみっかッ!?」

ビリビリとした緊張感をぶち破るように、携帯が鳴った。
苛立ちを隠すことなく電話に出れば、イルーゾォからの確認の連絡であった。
帰宅中であることを告げれば、終わったならいい、とすぐに切られた。

「どいつもこいつもよォ~~~~ッ!!!!」

携帯をぶん投げ、フロントガラスにヒビが入ったが、そんなことを気にする余裕もない。
サッサと戻ってゆっくり休みたい。

最後までプロシュートにこき使われ、荷物持ちまでさせられた。
渋々袋を抱え、アジトの扉を開く前に、いきなり頭を掴まれた。
反射的に蹴りを入れてやろうと思ったが、そのまま雑に頭を撫でられ、解放された。
訳が分からない。
荷物をキッチンスペースに放置して、のんびりとテレビを見ていたペッシに声をかける。
玄関前でのやり取りを含めた愚痴を長々語った。

「最後のやつ、ギアッチョは褒められたんだと思うぜ」
「ああ?褒められたァ?」
「プロシュート兄貴は厳しいけど、ちゃんと褒めてくれる人だからな!」
「ふ~ん…一番連れ回されてるペッシが言うなら、納得できねぇけどそうなんだろうなァ」


珍しい男と組まされた仕事を終えた。
その男の不思議な一面を覗きつつ、ここに居なければ褒められることさえ無かったのだろう、と。
己の存在する場所を幸福に思うのだった。
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