幕間


姫様が面倒に巻き込まれたという報せを受けて、騎士団長用に用意されている部屋に向かった。
姫様が絡む事案には、何より兄である国王陛下が穏やかでなくなる。
そういう状態の国王は、いつにも増して恐ろしい迫力を持っているので、正直に言えば苦手なのだ。
団長の私室に呼び出されたのであれば、もしかしたら恐ろしい状態の国王には会わなくて済むかもしれない。
淡い期待とともに開いた扉の先には、不機嫌そうな団長とともに凍てついた美しい笑みを浮かべた国王が待っていた。


「──という訳なんだが…ここまでは飲み込めたかな?」
「クレト様が大変お怒りになっていることは理解できました」
「そうなんだよ、やはり君は聡いね。あの子を余計な事に巻き込んだ輩が判明次第、不穏分子の処分を命じる」
「処分…生かす必要はない、と」
「必要ない。あの子が戦場に出るかもしれない事態を引き起こした奴らに弁明させる気はないよ」

凍てついた眼差しが、睨むように己を射貫く。
面倒という一言に纏められた内容が、耳を疑うような事態であり、流石にそれは穏やかな国王陛下もぶちギレるだろうと思った。
二階を怪しまれず歩き回れるのは、ベテランの使用人か城内警備の騎士だけだ。
騎士団については、団長に代わって騎士たちの行動は逐一把握するようにしている。
最近の報告の中で、気になるものは無かったはずだ。
となると、使用人の方を探った方が早いか。

「怨恨で考えるなら、三名ほど前王の時代から仕えている者がいる。その者たちは一応私に忠誠を誓うと答えたため解雇せずに残してある。もしくは金銭で考えるなら、これが使用人全員の経済状況の資料だ」

机の上にバサバサと資料が置かれていく。
つらつらと説明を始める国王に、普段からどれだけの情報を集めて周囲を警戒しているのかと頭が痛くなる。

「それでは──任せたよ、ルイン」

国王の迫力に負け、返答が引き攣ったのは許してほしいと思った。


結局、前王から仕えていた使用人のうち、生活に困窮した者が目先の欲に眩んだというのが真相であった。
前王と関わりのあった親族筋に繋がる者たちからの依頼でもあり、成功すればそちらに戻れると思ったのだろう。
扉に紙片を差し込むだけの簡単な依頼ではあったが、聡い姫様はその証拠を保管していた。
筆跡やら指紋やらの証拠も取れてしまえば、その男は全てを話す以外の選択肢は無かった。

「…馬鹿なことをするもんだな。あの二人に敵うわけないだろうに」

きっちりと縄で縛り上げられ、国王の前で項垂れる男は、目で見て判るほど震えている。
それもそうだろう。
国王が何よりも愛する姫様を、面倒な事──即ち、彼女の命が危険に晒されるような事態へのキッカケを作ったのだから。

涼やかな顔で剣を構えた団長が、一息に剣を振り下ろした。
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