幕間


あと一手に難儀する作戦立案に疲弊し、一時休息を取ることにした。
背凭れに背を預けて天井を見上げた友人が、一際大きなため息を吐いた。
どうしたのかと視線を向ければ、ゆっくりと友人の顔がこちらに向けられる。
その顔に冷え冷えとした人形めいた笑みが張り付いているのに気づき、今度は己が天井を仰ぐ番になった。

「さて、私が誰よりも敬愛する友人よ」
「……どうした、国王陛下」
「私が愛する可愛らしい妹が、とても悲しい顔をしていたんだ。しかも、君に対して恐れも抱いているようなんだが…弁明はあるかな?」

こうなることは予測できたというのに、何故あの場では上手く対処できなかったのだろうか。

護ってやりたいという願いはある。
しかし、すべては友人の為だけに。
彼が護りたいと願うから、彼が愛するものを護ろうと決めただけだった。
友人が何よりも妹を大事にしたい、幸福にしたいと願うから。
だから、彼女を気にかけているだけなのだ。
彼女が微笑めば、それだけで穏やかな気持ちになる。
彼女が悲しめば、その原因を排除したくなる。
その衝動に偽りはない。
あの美しい宝石のような金の瞳が、ただ己を見つめて嬉しそうにする姿に、不思議な充足感を感じる。
──健やかであれ、と。
友人と同じ願いを抱くようになるのに、そう時間は掛からなかった。

しかし、今だけなのだろう。
この心地よい不思議な関係が続くのは。
きっと、そのうち消えてなくなるはずだ。
彼女は、彼女の愛する相手と添う。
そして、友人が願ったような幸福な未来を進む。
王家の娘なのだから、相手も同格だろう。
他国に嫁ぐことになるなら、己が側で護ってやることもなくなる。
心地よい関係にも、もうじき終わりが来る。
それが解っていて、何故これ以上無駄な時間を重ねようと思えるだろうか。

「……お嬢さんとは、いつか離れる日が来るだろう」

別に、彼女のことを嫌っていない。
むしろ兄想いで健気な良い娘だと思う。
気に入っているから、別れを迎える日を考えたくないのだろう。
気に入ったものを手放した経験がない。
別れをどう迎えれば良いのか理解らない。
辛くなるくらいなら、今のうちに距離を置いてしまいたいと思ったのかもしれない。
彼女の瞳に滲む思慕が、気のせいであってほしいと願いながら。

「離れる日が来たとしても、疎遠になっていれば……辛くならないだろう?」
「…それは、クレアにとって?それとも、君にとってかい」
「俺は……お嬢さんとの別れを悲しむだろうか」
「アレク…その答えは、君自身が探すべきだね」

人形めいた笑みを崩して、友人は苦笑を浮かべた。

「ふふ、君は自分のことになると疎くて困るね」
「…お前が心を読むのが上手いだけじゃないのか」
「褒めてもらったと思っておくよ。今回の件は、後でクレアに謝っておいておくれ。あの子が許せば、私も許そう」
「すまない」

笑みを浮かべたままの友人は、楽しそうに片目を瞑ってみせた。
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