七つの大罪

今日も、彼女の横顔を何ともなしに見つめる。
 
綺麗で、優しげな面差し。
懐かしい面影を纏った、澄んだ瞳。
いつまで見ていても飽きることのない存在だ。

天気のいい、客のいない午後。仕事のない暇な団員たちは、食材調達やら暇潰しやらと出払っている。
ディアンヌとエリザベスは、そこらの野原で遊んでいるのだろう。ゴウセルは読書中だ。バンとキングは森に行ったはずだ。今夜の晩飯はあいつらの結果次第だな、と残っている食材を思い起こす。

「んで、ここには残飯係だけか」
「文句あんのか」
「うんにゃ、何もねえよ」

カウンター越しに甲高い声が反論する。グラスを磨く手は止めず、声だけで返事をしておいた。そこそこ長い付き合いだけあって、深い意味はない会話は、続かなかった。
暫く静かな時間が流れていたが、不意に小さな振動を感じ取った。それに合わせて、キャッキャッと明るく楽しげな声が聴こえてくる。女子二人が帰ってきたようだ。

「ただいま戻りました!メリオダス様、ホークちゃん」
「ん、お帰り、エリザベス。どした?その花は」
「近くに綺麗なお花畑があったんです!ディアンヌと一緒に摘んでいて、せっかくなのでお店に飾ってみようかと思いまして…」
「そか、んじゃ早速飾ってみるか」

嬉しそうに顔を綻ばせて、胸元で抱いた花束を俺に差し出した。あいにく花瓶はないが、ちょうど背丈のあるグラスがあった。それに水を入れただけの即席の花瓶を、なんとなくカウンターの自身の目の入る位置に置いた。

「どうだった?エリザベス」
「うん、置いてもらえたよ!」
「良かった~!」

開けてある窓からディアンヌが顔を覗かせる。髪を二つに結んである部分に、エリザベスが持ってきた花と同じ種類が差さっていた。
 
「団長見て見て~!可愛いでしょ!」
「おー可愛い可愛い」
「エリザベスがやってくれたの!キングたちにも見せてこよ~っと!」

ご機嫌にまた出かけていったディアンヌを見送り、椅子に座ったエリザベスに水を渡す。野原で何があったのか、何が綺麗だったと楽しそうに語るエリザベスと、それに相槌を打つプコプコうるさいホークの他愛もない会話。目の前で広がる会話を、俺はただ聞いているだけで良い。

「きゃ…っ」

小さく上がった声に顔を上げれば、開けたままの窓から吹き込んだ突風によって、彼女の透き通る銀髪が舞った。ただただ綺麗だな、と思いながら、スタスタと二階に向かい櫛を持って来た。

「ほれほれ、王女様。私めが髪を梳かして差し上げましょう」
「エリザベスちゃんに変なことするつもりか?」
「違う違う、俺がしたいだけ」
「本当ですか…!」
「うむ、そこ座ってくれ」
「はい!」

彼女のくれた櫛で、彼女の綺麗な髪を梳かす。さらさらと指を流れていく髪は柔らかく気持ちがいい。こうした触れ合いを喜んでいることは、嬉しそうな雰囲気を醸し出す彼女の様子で分かる。

「ほい、おしまい」
「ありがとうございました!メリオダス様っ」
「どういたしまして」
「なんだ、今日はセクハラしねーんだな。なら安心安心、良かったなエリザベスちゃん」
「ふふ…そうねホークちゃん」

くるりと回った彼女の髪が、ふわりと舞う。
陽を浴びてキラキラと輝いている。

「パンツ見えてるぞーエリザベス」
「へ…!?」
「さてさてさーて、そろそろ準備始めるか」
「あ、お手伝いします…!」

顔を少し赤くしたエリザベスが笑う。だから、俺も笑う。
そこには、何の曇りもなく、綺麗で優しい彼女がいる。いつ見ても、何度見ても、彼女は美しいままだ。

守る。何があっても守る。
今度こそ死なせない。
側で、隣で守り通さなければ。

それが叶わなくても。
生きていればいい。ただ彼女が存在すればいい。
 
「メリオダス様」
「エリザベス」

今はまだ。
名前を呼び合って、笑いあえる日々があれば良い。
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