ドラゴンボール

「チチ、なんか小っちゃくなったか?」
「は?」


唐突に言い出すのはなんら昔と変わらない。そして、いつも分かり難い内容をさらに短い言葉で表現するせいで、理解するのに時間が掛かってしまう。

「おらの何が?」
「う~ん…縮んだか?」
「背のことだべか」

これでようやく会話が進められる。ぽんぽん、と自分が座っているソファーの隣を叩く夫の隣に座って、上半身を彼に向け、向かい合う形になる。

「悟空さがでかくなっただけでねぇか?」
「オラ?背伸びたんかな」
「伸びたべ。ずーっと修業ばっかで筋肉のつけ過ぎだべな。子供でもねぇのに背なんか伸びるわけねぇけど、サイヤ人ならそんなこともあんだべか」
「さぁ~どうなんだろな」

まぁ、いっか!と、お得意の楽観ですべて投げ出してご満悦に抱きついてきた悟空に、苦笑しながらも、よしよしと背中に手を回して抱き締め返す。

「初めて会った時はおらの方が背が高かったのに」
「そういえばそうだな」
「天下一武闘会に出場した時はもう負けてただ」
「オラはそれどころじゃなかったな。名前も知らねぇ奴にすっげー怒られて、そのうえ試合させられても女は殴れねぇしさ。どうしよっかなーって困ってた」

祖父の教えを厳格に守っているのは彼らしいが、そんなの、あの時はおあいこだ。

「悟空さが綺麗さっぱり忘れてたのが悪いだ。おらはずっと待ってたのに」
「いやぁ~でも強かったよな。あん時は結構強ぇって自信ある奴が集まってたのによ」
「ふふん、悟空さの嫁がそんな奴らに負けてられねぇだ。ちゃんとおっ父に稽古つけてもらって真面目にやってただもん」

やはり並の根性ではない。出来ることならこれからも修業に付き合わせたいところだ。残念ながら、いつも断られてしまうが。

「でも、やっぱりカッコよくなってて、おら嬉しかっただ!強くて、イケメンで、優しいなんて最高だべ!」
「オラってすげぇんかな」
「だから、いい加減仕事してけれ」
「ははっ」
「笑って誤魔化すでねえ!」

戦い以外はほとんど進歩しない所が彼らしい。正直、仕事云々はもう諦めている。それなら、いっそ家に居て側にいてくれた方が何倍も嬉しい。

「悟飯なんかチチよりもっと小っちゃかったのにな~。今はオラと少しだけしか変わんねぇや」
「立派な子になっただよ、悟飯は。悟空さと違ってちゃんと脳みそが詰まってるだ」
「オラもある」
「あっても機能してなかったら一緒だべ」

ガシッと頭を掴み、ぐりぐりとやや乱暴に撫でまわす。いてて!とたいして痛くもないくせに騒ぐ夫を無視した。ずっとほったらかしにしてきた、ささやかなな仕返しだ。

「いてぇよ、チチぃ。悟飯があんだけでかくなったなら、悟天もでっかくなっかな」
「おらなんてあっという間に抜かされちまうだよ。そしたら、この家で一番小さいってことだな」
「チチがもっと小っちゃくなんのか!?オラ見えっかな…」
「悟空さがそれ以上でかくなんなければ見えるべ」

単純過ぎる思考には、ただ笑うしかない。なんて愛しい旦那様だろうか。

「でもチチが小さくなっても、ちゃんと守ってやっかんな」
「…嘘っぽいべ、不安だ」
「んなこと言うなよ、チチぃ~…」

守るなんて言葉が彼から聞けるなんて。しかも、この自分を守ってくれるなんて。薄っぺらすぎるのに、それだけで胸が熱くなった。単純なのは悟空のことを言えないかもしれない。

「分かった!悟飯と悟天と三人で守る。それなら無敵だろ!」
「そうだな、それなら安心だべ」
「あいつらチチのこと大好きだもんな!喜んで協力してくれんな」

不良になられるのは嫌いだけれど、守ってくれるなら許そう。まぁ、きっとそんな目に遭うことはないはずだ。一番先に、この無邪気な旦那様が駆け付けるだろうから。

「悟空さは、勿論おらのこと大好きだべ?」
「ちげぇぞ」
「へ?」
「オラはチチのこと愛してっぞ」
「!?」

思考が吹っ飛んだ。初な生娘でもないのに、顔が熱くなる。あの恋も愛も知らなかった無邪気な夫から、ずっと欲しかった言葉が出てくるなんて。

「なんで泣いてんだ!?」
「あー!お父さんがお母さん泣かせたー!」
「オラのせいか!?」
「お母さーん!大丈夫!?」
「おらも愛してるだー!」

うわー、バカー!とチチが抱きついて、一瞬きょとんとした悟空も嬉しそうに抱き締めて、ずるーい!と間に飛び込んできた悟天と、騒ぎを聞きつけて現れた悟飯も巻き込んで、自分の腕に収まる幸せの塊をぎゅうっと強く抱きこんだ。

「オラ、でっかくなって良かったかもな!」

こんなに護りたいものが増えてしまったのだから。
4/21ページ
スキ