ドラゴンボール

そんなものから一番遠いと思っていた親友が「結婚」した。
その夢のような事実を未だに信じられず、今日はその確認の為の意味も含めて親友に会いに行くことに決めたのだ。


「…あいつ、ちゃんと上手くやってんのかな。もう夫婦終わってたらどうしよう…メチャクチャ気まずいな」

子供の頃からの野生児のまま成長した。自由気ままに生きてきた女も恋も知らない奴だったのに。急に誰かと、しかも女と一緒に暮らすなんて、そんなハードルの高そうなこと出来ているのだろうか。

険しい山奥に佇む悟空の家。
可愛らしい新妻の出迎えに、腹を刺激する食事のいい香り。心配する必要もなく、まだ二人で暮らしているようだ。安心して、ほっと息を吐いた。

「昼には帰って来いって言ってあんだけんど…」
「いえ、気にしてませんから」
 
時間は、自分の腹時計で計るあいつらしい。すぐに会えるとは思ってもいなかったし、これくらい想定内だ。長年の付き合いのお蔭で、親友の突拍子もない言動に驚くことも減った。

「ただいま!」
「遅ぇだ!クリリンさ、待たせて!」
「へへっ、わりぃ、わりぃ。よ!クリリン!」
「お、おぉ…相変わらずだな、悟空」

帰った途端に繰り広げられる夫婦のやり取り。汗だくで怒られた悟空が風呂場に追いやられる一連の流れは、夫婦というより、まるで親子のやり取りだ。

「ちぇ~、チチは細けぇなぁ」

風呂場から出てきた悟空がぶつぶつと文句を言う。恐らく常識的に考えればチチの方が普通だと思うが、そこはあえて言わない。どうせ悟空には理解できないだろう。それにしても、文句を言う割にはちゃんと妻の言いつけを守っているようだ。それはなんだか意外で、とても感心した。

「よーし!メシだ、メシだ」

嬉しそうな悟空の視線につられ、テーブルを見る。昼食とは思えない山盛りの料理が並べられているが、すべて悟空の腹に入ってしまうのだろう。

「…食費がヤバそうだよな」
「チチのメシはうめーぞー!いっぺぇ食ってくれよな!」
「あぁ、確かに美味そうだよ!チチさん花嫁修業とかしたんだろうな…一途な奥さんとか羨ましいぜ」

早く恋人が欲しいところだ。手料理なんて羨ましい。

「なぁ、クリリン。チチは?オラのチチどこ行った?」
「あぁ、洗濯物取り込んでくるってさ」
「そっか。あいつ勝手に食うと怒るんだよな」

とか言いながら、すでに揚げ物をひとつつまみ食いしているから、またそれで怒られるだろう。我慢できないのがこの男の難点だ。

それよりも、無二の親友は言った。
「オラの」と言った。

今日のメインはこれであった。
悟空は昔から自分のものへの執着が強い。とくに大切なものは、維持でも取り返す。
お祖父さんの形見の四星球。筋斗雲。如意棒。
中でもこの三つは、とりわけ大切にしている。
物というより相棒で、悟空にとっては家族のようなものなのだろう。
「オラの」という言葉には、彼なりの愛情が込められている。だから、少なくとも妻のことは大事なものに振り分けられ、ちゃんと想っているようだ。

「こら!悟空さ!つまみ食いはダメだって言ってるべ。夕飯抜きにするからな」
「いっ!?ダメだ!」
「んじゃ、大人しく席についてるだ」
「分かった!」

洗濯物の山を抱えたチチが、母親よろしく悟空を叱る。

「ははっ」

なんだよ、オレの心配なんていらないじゃないか。
なんやかんや上手くやってるし、お似合いじゃないか。

リスのように頬を膨らませ、美味い美味いと料理を掻き込んでいく。あまりの勢いに皿ごと食べてしまうのではないかと茫然と見ていたが、チチの方は既に慣れているようで、にこにこと悟空を見つめている。
パッと見たらカップル。しかし、そのやり取りは親子のようだ。けれど、二人の間の繋がりは夫婦そのものだ。
不思議な二人だよなぁ、としみじみ思った。


「じゃあ、そろそろ帰るな」
「もっとゆっくりしてけばいーじゃねぇか」
「いや、用事あるし、あんまり夫婦の邪魔するのも悪いからさ」
「そっか、んじゃまたな。亀仙人のじっちゃんに宜しくな」
「おぅ、チチさんのことちゃんと大事にしてやれよ」
「ははっ」
「なんで笑って誤魔化すだ!!」

また怒られた悟空を笑って、ジェットフライヤーに乗り込む。仲良く並んだ夫婦に見送られ、少し名残惜しかったが、なるべく飛ばしてカメハウスへと飛び立った。

「オレも早く結婚したいなぁ。クソー!羨ましいぞ、悟空~!」


何も変わっていないと思っていたけれど、一人で生きてたあの頃より、ずっと幸せそうに笑っていた。
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