聖闘士星矢


廬山の大滝の流れる轟音を全身に浴びながら、老師とともに瞑想する。
老師の揺らぐことのない山のように大きく穏やかな小宇宙を感じつつ、己の中に眠る昇龍のうねりのように燃え上がる小宇宙を感じ取れた。
確かに強くなっている。
使命のため、仲間との約束のため、尊敬する師のため。
ここで過ごし、外界で得た全てが、今の己を形作っている。
大滝の轟音を聞きながら、こちらに近づいてくる微かな気配を感じ取った。
思わず視線を向けようとした時に、コツン、と老師の杖に叩かれた。

「気が乱れたな、紫龍」
「…申し訳ありません、老師」
「よい、今日の修行はここまでじゃ。春麗との約束があるのじゃろう」
「はい、ありがとうございました」

丁寧に頭を下げて、手を振って駆け寄ってくる春麗を見つめた。

「老師様、紫龍と出掛けてきますね」
「あまり遅くならないうちに帰ってくるんじゃぞ」
「ふふ、行ってきますっ」

春麗に手を引かれ、五老峰の山を進む。
春が過ぎ、初夏を感じる季節になってきた。
青々とした草木の色に深みが増し、山全体から力強い命を感じる。
肌を撫でる爽やかな風も、木々の隙間から射し込む光も、小鳥の囀ずりも。
すべてが心地よい。

「春麗、昨日話してくれた俺に見せたいものって何だい」
「見てのお楽しみよ。とても素敵だったの」

清らかな小川を越えて、深い木々を越えた頃。
少し開けた場所に出た。
辺り一面に咲く白い小花が、ひっそりと咲き誇っている。

「ね、綺麗でしょう?」
「知らなかったな…こんな場所があったのか」
「たまたま見つけたの。ここの花を摘んで、老師様にもお見せしたくて」

楽しそうに花を摘み始める春麗の側に腰を下ろす。
触れただけで潰れてしまいそうな脆さを感じる花を手に取り、こちらを見た彼女の髪にさした。
いつかの時のように、うっすらと頬を染めた春麗が、にこりと微笑んだ。
それから、彼女の細い腕が伸びて、頭に何かが乗せられた。

「ふふ、紫龍も似合ってるわ」
「参ったな…君の方が似合っているのに」

彼女にもらったなら、大切に持っていなければ。
例えそれが、似合わない花冠だとしても。

家に飾る分の花を摘み終え、のんびりと山を進む。
家に着いた頃には陽が傾いており、遅いと一言叱られた。
申し訳なさを感じながらも摘んだ花を見せると、老師は綺麗だと微笑まれた。

春麗が夕飯の支度をし、その間に風呂の準備を進める。
花を飾られた老師は、嬉しそうにそれを眺めている。

この地で感じるすべての音が、この幸福な日々の象徴であった。
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