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隣国の要人の誕生パーティーに招待された日。
華やかな衣装を身に纏った人々が集い、そこかしこで談笑の華が咲いていた。
サンクキングダムの代表として、未だ日は浅いものの元々上位階級として過ごしてきたお蔭か、社交場は何ら問題なく熟すことができている。
このまま楽しげな雰囲気でパーティーが終わると思っていた矢先、入口付近で悲鳴が上がった。
咄嗟に近くの柱に身を隠し、状況を把握しようとしていると、誰かに腕を掴まれた。
声を上げずに見やれば、それは想いを寄せるヒイロであった。

「ヒイロ…どうして、ここに」
「お前の暗殺計画を掴んだ」
「私が狙いでしたのね」

自分自身は、暗殺やテロに慣れてしまっている。
ただ巻き込まれてしまった善良な市民に犠牲者が出ないことを祈るしかない。
しかし、恐らくあの悲鳴は犯人を捕まえる際に周囲の人間が上げたものだろう。
きっと、既に犯人は彼の仲間によって拘束されているのだ。
今回もこうした暗殺を悉く阻止してくれた彼らに、いつかまとまったお礼がしたいと思っている。
安堵感を抱きながら、柱の陰で未だに警戒を続けているヒイロの肩にもたれた。

「…ヒイロ」
「まだ残りの奴らを捕らえたと連絡が無い。もう少しここで大人しくしていろ」
「はい、分かりました」

彼の隣に座り、事態が落ち着くのを待つ。
警備員達によって参加者達も会場から避難させられている。
このままならば、余計な被害は無いだろう。
それから五分もしないうちに、デュオから全員捕らえたと連絡が入り、ヒイロに手を引かれて用意されている控室に戻った。

「ありがとう、ヒイロ。そしてご苦労様です」
「たいした任務じゃない」

素気ない態度はいつも通りだ。
けれどさっきより殺気がない分、少しリラックスしているのかもしれない。
似合わないプリベンターの衣装に身を包み、警戒するようにじっと窓の外を見つめている。

「ふふ、貴方達は本当に神出鬼没ね。今日のパーティーのことは伝えていなかったはずですけど?」
「宇宙も含め、世界中のネットワークをハッキングすることは、俺たちにとってそう難しいことじゃない。お前の存在は今の世界には必要だ。死なれては困る」
「─私が死んだら、どうしますか」

挑戦的な瞳で彼に問い掛けると、窓に向けられていた彼の蒼い瞳が無表情に私を見つめ返した。
強い瞳が射抜く。
答えは分かりきっている。
それでも、寡黙な彼の口から聞きたい。

「それは、俺がお前を殺したときだ」
「…そうね、私が貴方に殺されるのは決まっているもの」

どうせこのままパーティーはお開きになるのだから、正装を解いてもいいだろう。
結っていた髪を解き、微笑みながらヒイロに手を伸ばす。
同じように彼も手を伸ばし、触れ合った手を重ねて握り締める。
自然と抱き寄せられるように身を寄せ合い、互いの呼吸を合わせるように静かに目を閉じた。
トクリトクリと、穏やかな鼓動が聴こえる。
重ね合わせた手が解け、抱き締めるように背中に回された。

「リリーナ…お前を、殺す」
「…えぇ、私を殺して、ヒイロ」

吐息のような甘やかな声が、じんわりと体に溶け込んだ。
その不穏な台詞を幸せに感じながら微笑み返す。

──二回目の殺害予告は、まるで愛の囁きのような甘美さを纏ったプロポーズのようであった。
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