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薄く開かれた窓から吹き込む夜風が心地よい。
時折強く吹き込む風に、大きくカーテンが揺れた。
窓を限界まで開け、椅子に凭れかかったまま夜空を見上げる。
無数の星が美しく輝き、銀色に縁どられた満月が煌々と世界を照らしている。
緩やかに世界を巡る風が、さわさわと木々を揺らしていた。
少し冷めてしまった紅茶を飲みながら、広げていた資料を片付け、テラスに歩み出た。
大きく伸びをし、自然の荘厳な世界に身を浸す。
風に吹かれ靡く自身の髪を片手で押さえ、思わず笑みが零れた。

「綺麗な夜空…」

久しぶりに空を見上げた。
ずっと紙ばかり見つめ、暫く宇宙で働いていたから、地球から空を見上げるのは久しぶりだ。
感じる重力、生き物の声、自然の流れ。
宇宙では感じられない、生命の息吹。
それらすべてが風を通して、私の体に沁み渡っていく。

「貴方にも解ってもらえるかしら、ヒイロ」

宇宙が故郷の貴方に、私のこの感覚は理解してもらえるかしら。
宇宙は貴方たちに冷たくあたり、地球も貴方たちに優しくはなかったけれど。
それでも世界の、ひいては己の志や願いの為に戦い抜く貴方たちが、私は好きよ。
誰よりも強くて、優しい貴方たちが。
心は、いつも貴方を探しているのよ、ヒイロ。
まるで影のように生きる貴方を。
なかなか会いに来てくれないから。
私だって、恋人と会えなければ寂しいのよ。

「…早く、私を殺しにきなさい」
「了解した、リリーナ」
「!」

どこからともなく現れた待ち望んだ想い人に、控えめに笑いかける。

「あら、私ずっと待っていましたのよ、ヒイロ」
「そうか、それはすまない」
「まぁ、心の籠っていない返事ね」
「お前も仕事で忙しかっただろう」
「ふふ、じゃあお互い様ね」

月光に照らされた彼の口元に、微かな笑みが浮かんでいる。

「今夜はいつまで?」
「朝までだ」

朝がくれば、また知らないうちに世界の影になってしまうのね。
仕方ない、何でも許してしまう。
惚れた者の弱みだ。

夜空よりも澄んだ青い瞳を見つめ、まずは再会の口付けを。
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