00:お題


「…どうした、マリナ」
「何でも、ないの…大丈夫よ、刹那」

なら、その俯いた顔をあげたらいい。
何でもないと言うのなら、そんなに掠れた、震えを堪えた声で俺を呼ぶな。
…何もできない自分が憎らしいだろう。

「…俺では、力になれないか」
「……そんなこと、ないのよ。でも、私のやるべきことなの…」

自分の腕で体を抱き締めるようにして、彼女はそれきり何も言わずに、その場に静かに頽れた。
押し殺した嗚咽が、彼女の噛み締めた唇から小さく漏れ聞こえる。
その様子を、俺はただじっと見つめた。
手を伸ばして触れることもできず、気の利いた言葉を投げかけることもせず、ただじっと見つめた。

絶対的な彼女との壁。
立場の違い、目指すものの違い。
それ以前に、八歳という年齢差。
彼女にとって、俺は餓鬼だ。
それを象徴するのが、彼女との僅かな身長差。
僅かなその差が、こんなにも彼女との距離を生み出す。

支えるなんて夢物語だ。
だから、早く成長できたらいいのに。
そうしたら、彼女を包み込める。
気の利いた言葉はかけられなくても、ただ抱き締めることができる。

少しだけ伸ばした腕を見て、やはりそこには絶対的な壁を感じた。
7/15ページ
スキ