00:お題


緩く波打つ彼の髪を撫でていく。
彼も私も、何も言葉を発しない。
ただただ、静かに髪を撫でる。
背中に押し付けられた彼の頭は、呼吸による僅かな動き以外、微動だにしない。

「…辛いわね」
「……」

また少し、強く頭を押し付ける。
答えは、それだけで十分だ。
仲間が死んだ、と彼はそう言った。
そのまま後ろから抱き締められ、今の状態にある。

大事な仲間だった。
こんな俺に優しくしてくれた、兄貴分のようなような男だった。
ぽつりぽつりと教えてくれた彼の仲間は、きっと特別な人だったのだろう。
それでも、ただ死んでしまったと呻いた。

「…呆気ないな。死んでしまったら…」

何も、できないじゃないか。
何も、遺せないじゃないか。

「…そうね、貴方達の願いは…」

いいえ、私の願いも。
どれほど強く望んでも、人一人の力では到底実現しない。

「…報われないのね。貴方の想いも、願いも…」

そして、私の願いも。

けれどお願い。
どうか自分を見失わないで。
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