幕間


己の愛するささやかなものさえ奪おうとする何もかもが許せなかった。
いつから命を奪うことに躊躇が無くなったのかは覚えていない。
その片鱗は、恐らく幼い頃に己の命を害された時には芽生えていたのかもしれない。
殺されるくらいなら殺してやろう、と。
そんな思いは日に日に増して、ついには己の命を奪いかけた毒物の取り扱いにまで手を伸ばすことにした。
レイピアの扱いに不安はないし、むしろ一対一なら騎士団に劣るとは微塵も思っていない。
しかし、国王という立場に君臨した現状を考えると、国王自らが人を殺すというのは国民への悪印象になりかねない。
騎士団という国の武力があるなら、表立った裁きはそちらに任せた方が良い。
そう考え、辿り着いたのが毒殺だ。
敷地内には医療区画もあるが、そもそも城内には毒物や劇物は保管していない。
取り扱いに注意が必要なものは薬品用の倉庫兼研究所に纏められ、専門知識のある人間を選別して管理している。
城内で毒殺があったとすれば、それは外部から城に持ち込まれたものだと誰もが考えるだろう。
それらが国王すなわち己の私物なのだとは、誰も考えない。

暗殺に有用だと考えるようになったのは、忌々しい親類による妹の政略結婚への対処のためであった。
最愛の妹の政略結婚を阻止するために、友人の手だけを汚すことには反対だった。
よく研いだ針に毒を仕込み、標的の一部に突き刺す。
たったそれだけの工程で、不愉快な男どもは絶命した。
アレクが妹を保護し、その隙に標的に毒針を突き刺す。
婚姻相手に選ばれる大半の男たちは、数多の女性と浮き名を流しているような者ばかりである。
事後処理としては、男への恨みのある者の犯行を匂わせておく。
調べる方も対象の多さに辟易し、大概は有耶無耶になって歴史の闇に葬り去られるだけだった。

つい先ほど絶命した男を睥睨し、その汚らしい姿に顔を顰める。
妹の美しい髪を無造作に掴み、彼女の穏やかな心を悪戯に乱し、あまつさえ無遠慮に触れるなど到底許しがたい。

「クレト様」
「やぁ、ルインか。団長殿はまだ可愛い妹の側に居てくれているかな」
「はい。代わりを務めよと指示を受けました」
「なら良かった。早速片付けてしまおうか」

団長補佐が頷くのを確認し、投げ出されていた骸の手を踏みつけた。
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