On the way to Living Dead

ー忠犬は、主人の為に存在する。

だから僕も、主人の為なら何でもできる。
ゾンビだろうと人間だろうと殺せる。
命令はいらない。それはすべて主人の為だから。けれど、主人の命令は絶対だ。

なのに、なのに。

忠犬は、主人の為にすることがなくなってつまらない。
今は、主人の隣に居るあの子が羨ましくて仕方ない。
僕がしたくてもできなかったことを、あの子はするするとやってのけるから。

「竜太郎さん」って名前を呼ぶなんて。当たり前のように手を握るなんて。
僕の主人は、他人に触れないはずなんだから。
主人の横に並ぶのも、追いかけるのも。
それはずっと僕の役目だったのに。

なのに今は。
忠犬は、ただただ主人を守って遠くから眺めるだけだ。

可愛い女の子だと思う。
素直で、少し天然で。
そして、どこか僕と似ている何かを持っている。
あの子も同類だ、幾度か言葉を交わすうちにそう思った。 
曇りがなく純粋で綺麗なゆえに、狂っている。

そう感じてから、何故か羨ましくなくなった。
同類なら、同じ主人を好きでも構わない。あの子は僕の半身だ。
 
それに、主人はあの子のことを大切にしている。特別な何かを感じ取れた。
忠犬の目は誤魔化せませんよ。
 
なら、僕は両方守らなきゃ。
大好きな主人と、主人の特別な同類のあの子を。
 
ここには嫌いな人しかいないから。
僕は死んでもどうってことないから。
僕に存在している価値はないから。

それに嬉しいことがたくさんあったから。
主人とたくさんお話できたし、褒めてもらったりもしたし、頭も撫でてもらえた。
なにより、ネックレスを預けてもらえた。あの人の何よりも大事なものを僕に触らしてくれた。

けれど、もう駄目かもしれない。

ー死は怖くない。
そう思っていたのに。

この地獄から、あの二人を助け出してないのに。
あの人についていくと決めたのに。
 
こんなにも心残りがあると、死ぬのが嫌だと思うのか。

まだ死にたくない。死は、嫌だ。
死してなお動きたくなどない。ゾンビなんて、死ぬより嫌だ。

だから、あの人に殺されたい。
殺して。どうか殺してください。僕を殺してください。
大好きで大好きで。僕の憧れの貴方に。

主人に迷惑などかけたくない。
…それでも、連れて行ってくれますか。
使い物にならない僕を連れて行ってくれますか。

まだ戦えますよ。存分に戦えます。
ちゃんとあの子も守りますから。
貴方があの子を生かすなら、僕はちゃんと守りますから。

ー忠犬は、主人を守って死ぬなら本望なのです。
4/10ページ
スキ