On the way to Living Dead

事後の気怠げな、でも甘ったるい心地よさに身を任せ、後ろから彼女を抱き締めた。
まだ少し汗ばんだ肌が手に吸い付くようで、どことなく擽ったい。シーツに顔を埋めている彼女のくぐもった笑い声が聞こえ、どうしたのかと、顔を寄せた。

「ふふ、くすぐったいです、竜太郎さん」
「…そうだな」
「でも、気持ちいいですね」

シーツから顔を上げ、ふにゃりと笑った。自身の頬も緩んだのを感じ、照れ隠しとともに柔らかに彼女の髪を撫でまわす。

「ボサボサになっちゃいます」
「どうせシャワー浴びるだろ」
「浴びます」

もう少し彼女に触れていたいが、風邪をひかれても困る。先にシャワーを浴びに行かせ、待つ間に片づけをしておくことにした。ほかほかと気持ち良さげに笑顔で戻ってきた彼女に危うくまた欲情するところだったが、さすがにそれは大人げない。どうせ毎日一緒に居るのだから、少しずつ触れていけばよい。

「竜太郎さん、明日お出かけしましょう」
「いいけど…何処か行きたい場所でもあるのか?」
「甘い物食べに行きませんか」
「行く」

甘い物に釣られるとは男としては微妙だが、正直彼女が行きたいと言えば何処へでも行ける。甘やかしてやりたいと思う。自分にできることなら何でもしてやりたい。

「じゃあ早く寝とけ」
「はい!おやすみなさい、竜太郎さん」
「ん、おやすみ」

またひとつ額にキスを落として、瞼を閉じた彼女を見届ける。すぐに寝息が聴こえ、毛布を綺麗に掛け直した。
解かれた髪をそっと掻き上げて、クセっ毛の隙間から覗く項にひとつ咲いた紅い花弁を撫でる。普段髪をあげる彼女だから、きっとそれは人目に晒されるだろう。しかし、恐らく二、三日もすれば消えてしまいそうな薄い痕だ。
 
「…これは、牽制」

彼女は齢を重ねて綺麗になった。
そんな彼女を誰にもやらない。やるつもりなど毛頭無い。

そして、もう一つ。
こっそりと最中に付けた赤黒い痕。鎖骨の下の辺りに咲いた、『本命』

「…俺以外には、見られないから」
 
これからも、ずっと。見ることができるのは俺だけだ。

―キスマークなど、見えない方が本命だろう
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