首なし騎士:お題


ふらふらと覚束ない足取りで隣を歩く少女に目を遣る。
足元を歩く彼女の大好きな護衛犬が、時折心配そうに円らな瞳で見上げていた。
犬にまで心配されるとは、獣から見ても余程危なっかしいのだろう。

「……おい、お嬢さん」
「……なに」
「歩きながら寝るなよ」
「…いや、眠ってないわよ」

眠そうに目を擦りながら、部屋の扉を開く。
ふらついて、危うく扉と正面衝突しそうになるのを寸前で抱き留めた。
ごめんなさい、と謝罪の言葉を呟いたようだが、もごもごとしてハッキリとは判らない。
このままではあちこちに傷痕を作りかねない。
盛大にため息を吐いて寝台へと手を引いて連れて行く。
もはや思考も機能してないのか、されるがままの彼女を寝台に放り投げた。

「……痛いわ、アルベルト…」
「もう寝ろ、お嬢さん」
「ん…」

返事もそこそこに、もぞもぞとシーツに包まる少女を見届ける。
満足し、踵を返して部屋を出ようとした時。
ぐいっと服の裾を引っ張られた。
シーツから、細い腕が生えている。

「…なんだ」
「……」

無言で引っ張る彼女にまたため息を吐いて、寝台の端に腰掛ける。
ぎゅっ、と腰に細い腕が絡まり、彼女の髪がさらさらと広がった。
掴んでいる彼女の腕に触れると、さらにぎゅうと力が籠り、ぐりぐりと頭を押し付けられた。

「…何をしているんだ、あんた」
「……」
「寝ぼけてるのか?」
「ん…」
「いい加減にしないと襲うぞ」

此方は何も遠慮することはないのだから。

押し付けられていた頭が移動し、とろとろした寝惚け眼と目が合った。

「……あのね…おやすみ、アルベルト…」

そのまま眠ってしまった彼女の腕を細心の注意を払い、起こさないようにそっと解く。
 
「…おやすみ、ロッティ」

ほんの少し口角を上げて、健やかに眠る愛しい主を見つめた。
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