OLD:お題


二人で過ごすには少し広い家の中で。
空腹を刺激する美味しそうな香りがリビングに広がり、今すぐにでもお腹が鳴ってしまいそうだ。
楽しみで、ドキドキしている。
完成まで暇を潰すために流していたテレビの内容は、スルリと頭をすり抜けていく。
意識してはいけないと思えば思うほど、意識は美味しそうな香りに引き寄せられてしまう。

「まだ我慢しないと…もう少し…」
「もう少し待ってろ、すぐに出来るから」
「はいっ」

キッチンから竜太郎さんの声が聞こえ、安心したのかついに私のお腹は鳴ってしまった。
思わずお腹を押さえてソファに蹲った。

「お前、そんなに食い意地張ってたか?」
「ち、違いますよ…!これはですね、竜太郎さんのご飯が楽しみなんです!」

恥ずかしさから赤くなった顔をクッションで隠しながら、キッチンで面白そうに笑っている竜太郎さんを軽く睨む。
皿に盛り付けている姿さえ様になるのだから、彼はとてもカッコいい。

「ほら、出来たぞ」

盛り付けられた皿を二人でテーブルへと運ぶ。
二人で運ぶだけで、何故だか美味しさに満たされていくような気持ちになる。
目の前に広がる彼の手料理。
彼の祖国の料理を、彼の手作りで食べてみたいと言ったのは先日のことだった。
こうして目の前に並ぶ料理を見て、無茶は言ってみるものなのだと感動した。
出来立ての料理を黙々と食べて、呆れた笑みでこちらを見ていた彼に、とびきりの笑顔を向ける。

「幸せです!」
「…ん、良かった」
「美味しいです。とっても美味しいですね」
「分かったから、大人しく食えよ」

子どもを宥めるようにため息を吐きながら、口元に付いたソースを拭ってくれる。
優しく目を細めて笑い、彼は幸福そうに頬を緩めた。
5/6ページ
スキ