剣の王国:お題
珍しく、アルフレドがドジをした。
驚きと珍しさで暫く固まったまま見つめていると、ぶつけた額を押さえてこちらを睨む彼に気づき、慌てて手当の道具を探すために椅子から立った。
「…め、珍しいわね、アルフレド…」
「……自分でやるからいい」
「具合でも悪いの?もしそうなら、不安だから私が手当するわ」
頭は危ないでしょう?と言って譲らない彼女に根負けし、仕方なく椅子に座る。
普段ドジなくせにとても真剣に言われるとそれ以上言えず、とりあえず彼女の満足するようにさせることにした。
「うん、これで大丈夫。他に気になるところはある?」
「ない」
手当てをしてもなお心配そうに見つめる彼女の額に、お礼の代わりにデコピンをしてその場から離れる。
ぐるぐると頭の中に残る、さきほど聞こえた言葉を思い返しながら、深く深くため息を吐いて、本を読むふりをした。
『アルフレドのこと、好きよ』
鶏のからかいの言葉にバカ真面目に答えただけの、なんてことないものだったのに、酷く動揺してしまった。
「ねぇ、アルフレド」
「…!」
「まだ痛む?」
「は?……別に大したことないし」
「ちょっとやり忘れちゃって…」
「?」
徐に俺の額に手を当て、早く痛みがなくなりますように、と呟いた。
ついでとばかりに髪を撫でた彼女は満足そうに、照れたように笑った。
「父がよくやってくれたの。アルフレドも、早く良くなるといいわね」
「…ただぶつけただ、お節介」
―子供扱いするなと、心の中で呟いた。